乳量を増やすための遺伝子選抜が乳牛の福祉に及ぼす影響

論文概要

 

過去40年間で乳牛1頭あたりの乳量は2倍以上に増加し、現在では多くの乳牛が1泌乳期あたり20,000 kg以上の乳を生産している。この生産量の増加は懸念をもって捉えるべきであり、その理由は以下のようなものである。i) 乳量増加に伴い、繁殖能力の低下、下肢疾患や代謝性疾患の増加、寿命の短縮が進行している。ii) 泌乳量と繁殖力、乳房炎その他の生産性疾患との間には望ましくない遺伝的相関が存在し、これは繁殖力の低下と健康状態の悪化を引き起こしているのが主に泌乳量を増やすための遺伝的選択のためであることを示している。iii) 高い疾病発生率、繁殖力の低下、寿命の短縮、牛の正常な行動に変化が見られることは、いずれも牛の福祉が著しく後退していることを示している。

動物福祉の向上が重要であるのは、それが持続可能な生産システムや優れた品質の指標として社会で認識されているためであり、経済面でのメリットにつながる可能性があるためである。英国で使用されている「生涯収益指数」を拡張し、乳房炎に対する抵抗力と繁殖能力を追加した場合、乳生産量のみに基づく選抜と比較して、その経済効果は最大80%まで増大する可能性がある。

過去10年間、欧州と北米では複数の育種組合が北欧諸国の例に倣って繁殖能力の向上と乳房炎の発生率低減を育種目標に組み込んできたが、こうした取り組みはいまだ十分とは言えない。育種組合が牛の福祉向上を目指すのであれば、多形質選抜プログラムにおける育種目標に健康性と繁殖能力、福祉に関するその他の特性を含め、生産性とのバランスを適切にとる必要がある。

 

別のFACTを探す