健康的で持続可能な食事パターンのコスト 世界および地域レベルでのモデリング

論文概要

 

背景: 食生活を健康的で持続可能なものにすることは、地球上の天然資源を保護し、食生活が関連する死亡数を減らすうえで極めて重要な選択肢となり得る。しかし、このような食生活が一部の人口層にとって高価で手軽に取り入れられるものでないとすれば、その選択を阻む可能性がある。そこで本研究では、世界の様々な地域で健康的で持続可能な食事パターンに要するコストを推定した。

方法: このモデリング研究では、150カ国を対象とした「国際比較プログラム International Comparison Program」に登録された食品価格のうち地域間で比較可能なデータを用いた。従来のモデリング研究によれば、早期死亡率の低下や環境資源に対する需要の低減と関連しているのは、栄養バランスの取れたフレキシタリアン、ペスカタリアン、ベジタリアン、ヴィーガンの食事パターンである。そのため、これらの食事パターンの食品に対する需要量の推定値を上記の食品価格のデータと組み合わせた。2050年までの食料システムと社会経済における変化のシナリオを明確にするため、食品廃棄量の推定値、および予想される食品の需要量および食品価格を用いた。

フルコスト会計*1に際しては、食生活のリスクに関する比較リスク評価*2と疾病費用 cost-of-illness*3の推定値を組み合わせ、食生活に関連した医療コストを推定した。一方、気候変動に関連するコストについては、食事パターンに関する上記のシナリオと温室効果ガス排出のフットプリント、炭素排出に関連する社会的コストの推定値を組み合わせて推定した。

結果: 健康的で持続可能な食事パターンは、現在の一般的な食習慣と比較すると、パターンによって異なるものの、中所得国から高所得国では平均で最大22~34%の低コストとなっていた(統計的平均値を考慮した場合)。一方、中低所得国から低所得国では少なくとも18~29%の高コストとなった。食品廃棄量を削減できる場合や、社会経済において望ましい発展があると仮定した場合、また食生活が関連する気候変動や医療面のコストを含むより完全なコスト会計を行った場合には、健康的で持続可能な食事パターンは将来的により低廉な価格になると予測された。これらの対策を組み合わせた場合、2050年には低所得国から下位中所得国では健康的で持続可能な食事パターンのコストは最大25~29%低下し、世界全体の平均では最大37%低下した。全体としてはベジタリアン・ヴィーガンの食事パターンの価格が最も低廉であり、ペスカタリアンの食生活が最も高価であった。

解釈: 高所得国および上位中所得国では、食習慣を改善するために健康的で持続可能な食事パターンにインセンティブを付与する介入措置を採ることで消費者が負担するコストを削減することが可能であり、さらに気候変動対策における国家目標に寄与し、公衆衛生に関連するコストの削減も可能となる。低所得国および下位中所得国においては、健康的で持続可能な食事パターンは西洋型の食生活よりも安価であり、社会経済の発展と食品廃棄量の削減を実現できれば、中長期的には価格面での競争力を持てる可能性がある。食生活にかかるコストをより包括的に算定すれば、健康的で持続可能な食生活は、将来的にほとんどの国で最も低廉な選択肢となると考えられる。

*1 製品やサービスの製造・提供にかかる全てのコストを把握する会計手法で、直接費用だけでなく、間接費用や社会や環境に対する負担となる外部コストまで考慮して、包括的なコストを算出する *2 複数の環境問題やリスクに対し、科学的・定量的な評価に基づいてリスクの重要度を比較し、優先順位を決定する手法 *3 疾病が引き起こす経済的損失を貨幣価値に換算して示す手法

 

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