豚のウェルフェアに関する欧州指令の実施状況 EU 4か国における比較研究

論文概要

 

畜産動物の福祉は、持続可能な食糧システムへの移行における重要な要素である。最近の欧州市民イニシアティブ*1「ケージ時代を終わらせよう End the Cage Age」の成功は、動物福祉に対する社会の関心を示すものである。しかし、欧州連合(EU)には畜産動物の福祉に関する法律が存在するにもかかわらず、加盟国がこれらの法律をどのように実施しているかについてはほとんど知られていない。

このため、法の執行に関して加盟国の間にギャップが存在する可能性がある。問題となるのは、動物福祉に関するEUの政策が加盟国でどのようにカスタマイズされているのか、またこうした違いをもたらす原因は何かということである。

本研究ではこの問題を検証するため、EUに加盟する4か国(デンマーク・フランス・ドイツ・スペイン)において、豚のウェルフェアに関する欧州指令*2の実施状況を分析した。カスタマイズの概念に基づき、各国の規制における密度と制限*3の違いをEU基準と比較して評価し、世論や政党の立場など潜在的な要因について調査した。

その結果、加盟国の間には大きな違いがあり、デンマークとドイツがより厳格で密度の高い規制によってEU基準を上回っている一方で、フランスとスペインは最低限の要件を遵守するというのに近い状況であった。このような違いは、各国の社会における優先順位や、政策上の優先順位が異なることに見合ったものである。

本研究の結果は、EUの政策の導入に際しては各国の国内事情が大きく影響することを示しており、動物福祉のためにより効果的な法制度を設計するうえで有用な知見となる。EU全域で畜産動物の福祉を向上させるためには、世論と政治力学、法規制の間で働く相互作用をさらに理解する必要性がある。

*1 EU市民に付与された権利で、EUが権限を持つ政策分野について、加盟国7カ国から計100万人以上の署名を集めれば、欧州委員会に対して立法を提案することができる制度 *2 加盟国に対し、共通の政策目標達成のために国内法を制定するよう義務付けるEUの法令 *3 ここで「制限」は規制基準の引き上げや引き下げ、「密度」は規制措置の多寡を意味する

 

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