論文概要
環境と公衆衛生のために動物性食品の生産と消費を大幅に削減しなければならないことはますます明らかとなってきている。本稿では、畜産と食肉消費を削減するために政府が利用できる政策手段を探ることを目的としてシステマティック・レビューを実施した。このレビューで得られた主な政策手段は、4つのタイプの介入策-財政措置・指揮統制・情報提供・行動介入-に分類される。
第一に、4種類の財政措置について検討する。まず、食肉に対する課税は、最も詳しく研究されてきた介入策であるが、世論の受け入れは非常に難しいため、炭素税や付加価値税免除の取り消しなどの措置を通じて間接的に実施されることもある。動物性食品を代替する製品に対する補助金は、社会的により受容されやすい代替アプローチと考えられ、代替製品の競争力を高めることで、長期的な食肉需要を削減することになる。農業分野における排出量取引制度は、畜産業の生産者に負の外部性*に対する責任を負わせる仕組みであり、政治的に実現できる可能性がある方法として議論されている。畜産農場の買い取りは、畜産業から撤退する生産者に対して補償するもので、インパクトのある手法となりうるが、社会や市場に予期せぬ影響を与える可能性もあり、慎重に行う必要がある。
第二に、指揮統制に関する2つの措置について検討する。畜産業を規制するためにアニマルウェルフェアに関する要件や農業労働者の健康と安全の権利といった基準を適用することは、最も支持されている政策のひとつであり、生産段階で最低限の基準が満たされることを保証するうえではインパクトのある方法である。一方、(職場の食堂・給食など)公共的な飲食サービスにおいて肉を食べない日を設けるなど、動物性食品の摂取を制限することは、一般にはそれほど受け入れられていない。
第三に、情報提供に関する3つの介入策について議論する。食品のラベルでアニマルウェルフェアや環境への影響に関する情報を表示することは、こうした情報を求める消費者の期待に応えるものである。このようなラベルが消費者の行動に与える直接的な影響についての知見は限られているものの、生産者側には競争を通じた改善への動機となる可能性がある。同様に、国による食事のガイドラインは、食品の選択に対して直接に影響することはほとんどないと考えられるが、学校や医療機関のような他の機関には影響を与える可能性がある。政府には食肉の広告を禁止する担当部署がある一方で、食肉消費を促進するキャンペーンに多額を費やす部署もあるため、情報キャンペーンに関する政策は、食肉消費削減の取り組みに役立つこともあれば、悪影響を与えることもあり得る。
第四に、人々の行動に対する様々な介入策について検討し、公共的な飲食環境で実施することや、外食サービスにおいてインセンティブを与える可能性について探る。これには例えば、肉料理とプラントベース食をどのように紹介し位置づけるかについての工夫や、提供する料理の選択肢を変更することなどが含まれるが、人々の行動に対する介入策としてインパクトが大きく、かつ容易に運用できるのは、メニューの選択肢に高品質のプラントベース食を増やし、可能な限りこれらの選択肢をデフォルトとして提示することであり、食肉消費を削減できる可能性がある。
情報提供や行動介入に関する政策的な措置は、動物由来の製品の生産・消費の削減を目指すうえで、伝統的な財政措置や指揮管理に関する措置を補完することができる。研究者や政策立案者に向けて、研究の意義に関して議論する。
* ある経済主体の行為・経済活動が、他の経済主体の行為・経済活動に負の影響を及ぼすこと
Christopher Bryant, Abby Couture , Euan Ross, Alexandra Clark, Tom Chapman
2024/09/19
A review of policy levers to reduce meat production and consumption