アニマルライツをときほぐす―なぜ廃絶主義は福祉主義へと収斂するのか、それが動物倫理にもたらす意味とは

Animal Rights Unraveled: Why Abolitionism Collapses into Welfarism and What it Means for Animal Ethics

Luis E. Chiesa

2016/01/01

https://digitalcommons.law.buffalo.edu/journal_articles/356/

論文概要

 

[要約]

 ほとんどの人は動物の苦しみを減らそうとする法律を支持する。しかし動物虐待防止法(animal cruelty statutes)やその他の種類の動物福祉法はいわゆる廃絶論者に攻撃されてきた。アニマルライツの廃絶論者は、動物を商品として扱うのは定言的に[条件抜きに]誤っており、動物福祉法は動物の所有物としての身分を変えないのだから、反対されるべきであると主張する。廃絶論者は、動物福祉規制が大規模に動物の苦しみを減らすことはないとも主張している。実のところ廃絶主義者は、動物福祉法制は動物搾取廃止の到来を遅らせたり、動物性食品を消費し続けたい人々の良心をなだめたりすることで、未来の動物の苦しみを増やす可能性が高いとも論じている。

 本稿は、この主張が誤りであり、廃絶主義の哲学的な核心とも緊張関係にあることを指摘する。そもそも、動物福祉法が動物の苦しみを実質的に軽減しないという直観に反した主張を裏付ける実証的証拠はまったく存在しない。むしろ直観的に考えても、また数少ない実証研究が示すところでも、動物福祉法は実際に動物の苦痛を軽減していることが示唆されている。もしアニマルウェルフェアに関する規制が現実に動物の苦しみを大幅に軽減しているならば、廃絶論者は、本稿が「廃絶論者のジレンマ」と呼ぶ問題に直面せざるを得ない。一方で、廃絶論者は動物福祉規制を受け入れることができる。だがその場合、動物が所有物として扱われることを前提に成立している法律に反対するという廃絶論者の根幹的立場は大きく損なわれてしまう。他方で、動物が商品化され続けているという理由のみをもって動物の苦しみを減らす動物福祉法に反対することも可能だが、その選択は、将来の実現可能性も定かではない廃絶という目標のために、現在目の前にある動物の福祉改善を犠牲にして構わないと廃絶論者が考えていることを示すことになるだろう。現在生きている動物たちの苦痛への配慮を欠いたその姿勢は、政治的に容認しがたいばかりでなく、倫理的な観点からも深刻かつ根源的な問題を抱えた魅力のない立場となるに違いない。以上の理由から、本稿は、たとえそれが従来の廃止主義の在り方そのものを根底から覆し、結果として廃絶主義のプログラム自体を変容させることになろうとも、廃絶論者たちは動物の苦痛を現実に軽減する動物福祉法を積極的に支持すべきだと主張するものである。

 

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