論文概要
人々の行動の変化は、温室効果ガスの排出を速やかに削減し、危険な地球温暖化を防止するうえで大きな可能性がある。最もインパクトのある変化としては、飛行機の利用を減らす、肉食を減らす、電気自動車を運転する、家庭のエネルギー効率を向上させる、公共交通機関の利用を増やす、移動の際はできるだけ自分の足で動く、などが挙げられる。しかし、このような選択は、そのスケールを正確には捉えにくいうえ、また地位の高い、いわゆる「リーダー」と呼ばれる人々が奨励したり、模範とされることもほとんどない。しかし、ロールモデルとしてのリーダーには、こうした影響力があることは良く知られている。
本研究では、身体化したリーダーシップ*1 と信憑性ディスプレイ*2 の理論を応用した実験で、英国の一般市民(1267人)を対象として事前登録した調査を実施した。その結果、政治家や有名人による、目に見える模範的なリーダーシップによって、インパクトの大きい低炭素の選択において人々の意欲が大幅に高まることがわかった。さらに、率先して模範を示した場合、そのリーダーに対する信頼感や、誠実さ・能力・好感度についての認識が大きく高まっていた。
リーダーが示す模範が気候変動についての幅広い認識に影響することはなかったものの、一般市民にはリーダーシップを好む傾向が強くあることが明らかになった。従って、リーダー自らが低炭素を選択する行動を目に見える形で示すことを通じたリーダーシップの体現は、気候変動緩和のための重要な「ミッシングリンク」となり得る。研究の結果を踏まえ、この可能性について考察する。
*1 (言葉ではなく)身体的行為を認知・コミュニケーション・理解・意味の中心と位置づけ、自分の行動が他者や目標に与える影響を意識したリーダーシップのスタイルを指す *2 自らの努力や犠牲を伴う行動によって、言葉では伝わらないコミットメントや信念を他者に示すこと
Steve Westlake, Christina Demski, Nick Pidgeon
2024/09/27
Leading by example from high-status individuals: exploring a crucial missing link in climate change mitigation