論文概要
背景: 老年科学では、老化に伴う分子変化を緩和する方法の研究が焦点となっている。生活習慣の改善や薬物療法、社会的要因は老化プロセスに影響を及ぼすが、老化に関わる複雑な分子メカニズムにはエピジェネティクス*1の詳細な調査が必要である。雑食と比較した場合のヴィーガン食のエピジェネティック・クロック*2と予測効果については、老化に関連した結果に影響を及ぼす可能性があるにもかかわらず、まだ十分に研究されていない。
研究方法: 双生児の成人21組(42名)を対象として、8週間にわたって完全プラントベース食または(肉・卵を含む)雑食性の食事を摂取した場合に血中DNAメチル化に生じる影響を調べた。エピジェネティク年齢*3 の加速についての様々な指標(PC GrimAge・PC PhenoAge・DunedinPACE)を、システムに特異的な効果(炎症・心臓・ホルモン・肝臓・代謝)とあわせて評価した。臨床データ・代謝産物・タンパク質についてメチル化代替マーカーを分析し、それぞれの食事に特異的な変化を観察した。
結果: 2つのグループ間で異なる反応が観察され、ヴィーガン食のグループでは、エピジェネティックな年齢加速が有意に減少し、プラントベース食によるアンチエイジング効果を支持していた。メチル化代替マーカーの解析では、食事に特異的なシフトが認められ、食事が複雑形質の予測に影響を及ぼすことをDNAメチル化マーカーによって明らかにした。エピゲノム全体にわたる解析により、それぞれの食事に特異的にメチル化された遺伝子座が明らかになり、影響を受けた経路についての知見が得られた。
結論: 本研究は、短期間のヴィーガン食がエピジェネティクスの加齢変化に対して有効であり、摂取カロリーの減少にも関連することを示唆している。エピジェネティック・バイオマーカー・プロキシー(EBP)を用いることで、食事の影響を評価し、健康な加齢のために個人に合わせた栄養摂取計画を促進できる可能性がある。今後の研究では、適切な栄養補給の重要性を考慮しながら、エピジェネティックな健康と全体的な幸福に対するヴィーガン食の長期的な影響を探るべきである。
*1 DNAの配列変化によらない遺伝子発現を制御・伝達するシステム。化学的に安定した修飾である一方、食事、大気汚染、喫煙、酸化ストレスへの暴露などの環境要因によって動的に変化する。遺伝子と環境要因の架け橋となる機構であると言える(脳科学辞典より抜粋) *2 DNA分子へのメチル基の蓄積を測定する生化学的検査法で、生物学的年齢の測定に用いられる *3 エピジェネティック・クロックによって計算される生物学的年齢。暦年齢が生年月日で決まるのに対し、エピジェネティック年齢は体の細胞や組織の状態(老化度合い)を反映する。
Varun B Dwaraka, Lucia Aronica, Natalia Carreras-Gallo, Jennifer L Robinson, Tayler Hennings, Matthew M Carter, Michael J Corley, Aaron Lin, Logan Turner, Ryan Smith, Tavis L Mendez, Hannah Went, Emily R Ebel, Erica D Sonnenburg, Justin L Sonnenburg, Christopher D Gardner
2024/07/29
Unveiling the epigenetic impact of vegan vs. omnivorous diets on aging: insights from the Twins Nutrition Study (TwiNS)