論文概要
本稿では、哲学的概念である「種差別」―種に属するか否かによって異なる道徳的価値を付与すること―を心理学的構成概念として導入し、検討する。ネット上の一般人口集団および大学生をサンプルとして用いた5つの研究において、種差別は測定可能で安定した構成概念であるが、個人差が大きいこと、さまざまな他の偏見とともに作用し、現実世界における意思決定や行動を予測できることを示す。
研究1では、種差別的態度における個人差を捉えることを目的とし、理論に基づいて開発した「種差別尺度」について説明するとともに、これを実証的に検証した結果を示す。研究2では、4週間におよぶ試験においてこの尺度には高い再現性があること、すなわち、種差別は長期にわたって安定していることを示す。
研究3では、種差別には、人種差別・性差別・同性愛嫌悪などのような偏見に基づく態度と正の相関があり、また社会的支配志向性*1・システム正当化*2・右翼権威主義*3などの偏見と関連するイデオロギー構成要素との間にも正の相関があることを示す。これらの結果からは、種差別の根底には、よく研究されている他の偏見と類似したメカニズムが存在すると考えられる。
最後に研究4・5では、種差別に関するスコアによって、動物たちへの思いやり(慈善事業への寄付、時間をかけて関与すること)と行動面における食事スタイルの選択(肉食または菜食)を予測することが可能であり、これに関しては既存の他の心理構成要素より以上に正確に予測できた。
重要な結果として、人々は特定の動物種の個体に対しては、それ以外の動物種に比べてわずかな道徳的価値しか与えていないこと、このような傾向は(動物の)知能や感覚についての捉え方の違いを考慮したとしても当てはまることがわかった。最後に、種差別についての心理学的研究が人間と動物の関係の心理学に与える影響について議論する。
*1 集団間の格差や序列を好む程度を表す概念 *2 既存の社会システムを維持し正当化しようとする心理傾向 *3 権威に服従し、規範を逸脱する者に対して攻撃性を示し、伝統的価値観を遵守する傾向
Lucius Caviola, Jim A C Everett , Nadira S Faber
2018/03/08
The moral standing of animals: Towards a psychology of speciesism.