論文概要
教育における質の高いイノベーションは数多く無料で公開されており、その中には気候変動や持続可能性のためにエビデンスに基づいた行動への意欲を高めるものもある*。教育におけるイノベーションを普及させる取り組みは、一般的にアウトリーチや口コミによる拡散に頼っているが、こうしたアプローチで達成される成果は乏しい傾向にある。本研究では、動的意思決定支援モデルを開発してその原因を分析するとともに、普及に向けたその他の戦略の効果を検証する。
我々の分析では、一般的な高等教育の環境においてアウトリーチが及ぼす影響は限定的であり、口コミを通じたイノベーションの採り入れを促す効果はほとんどなかった。しかし、その代わりに、コミュニティを単位とした拡散によってイノベーションの普及を急速に加速できることがわかった。こうした効果は、少数ではあるが、現実世界でのイノベーションの拡大に成功した取り組みでも見られている。
このアプローチは、「アンバサダー」と呼ばれる人々のコミュニティを支援し、こうした人々がこれからイノベーションを採り入れる可能性のある人々と情報を共有するのを促すとともに、それに対して報酬を与えるというものである。このようなコミュニティ単位での広がりは、イノベーションを採り入れる人々を指数関数的に増やすことができ、その効果はアウトリーチや口コミによる拡散を急速に上回る。こうしたアプローチを用いない限り、教育におけるイノベーションを速やかに拡大し、持続可能性のために喫緊に求められる能力を育成することはできないと考えられる。
* 例えば、「世界の気候World Climate」や「気候行動シミュレーション Climate Action Simulations」は、対話型の気候政策シミュレーターとロールプレイを組み合わせることで、気候変動に関する参加者の知識や危機感を高め、気候変動と闘うためにもっと学びたい、行動したいという意欲を高めている
Juliette N. Rooney-Varga, Florian Kapmeier, Charles Henderson & David N. Ford
2024/11/04
Community-based propagation to scale up educational innovations in sustainability