論文概要
欧米型の食生活は、環境にさまざまな影響を与え、人々の健康にリスクをもたらしている。欧州諸国は、Farm to Fork(農場から食卓まで)戦略に向けて徐々に行動を起こしており、ライフサイクルアセスメント*1(LCA)の視点を取り入れて食品の生産と消費における持続可能性の促進を目指している。LCAでは環境への影響を包括的に評価することが可能であるが、食に関連した人間の健康やアニマルウェルフェアへの影響については、十分に考慮されているとはいえない。
ワンヘルス*2 は、人間・動物・環境が複雑に絡みあった健康の問題を総合的に捉えるアプローチであり、本研究では、これに基づいて食生活の持続可能性を評価するために、LCAに追加指標を統合することを提案する。こここでは、人間の健康に関する損失を非伝染性疾患の危険因子によって推定し、アニマルウェルフェアを動物の生命と苦痛に関する3つの指標(苦痛が続いた期間の合計年数・生命の喪失・倫理的な重み付けをした生命の喪失)によって測定する。
こうして拡張されたLCAの枠組みを、ドイツ・ノルトライン=ヴェストファーレン州(NRW)における男性・女性向けの基準食に適用し、食事中の栄養について一定の制約を設けたうえで、3つの最適化された食事シナリオ(国の食事ガイドライン・ヴィーガン食・地中海食)と比較した。男性の基準食では、女性の基準食に比べてワンヘルスの各次元において影響が大きく、これは特に調理済み食品・ソーセージ・肉・甘味飲料・アルコール飲料の消費量が多いことに起因していた。男性・女性のどちらの基準食も、心血管疾患・糖尿病・脳卒中・腫瘍性疾患の危険因子と関連していた。食肉のほかにも、蜂蜜・魚介類の消費は、これに関わる動物の個体数が非常に多いために、アニマルウェルフェアへの影響は最も大きかった。
代替食を採用した場合、ノルトライン=ヴェストファーレン州における食料消費の持続可能性は全般的には向上するが、これにはトレードオフの問題があり、地中海食では魚の摂取量が多いため動物に与える苦痛を悪化させ、ヴィーガン食と地中海食ではナッツや野菜の摂取量が多いため水の使用量が増加することになる。
本研究の結果は、LCAにアニマルウェルフェアと人間の健康に関する指標を加えることの重要性を強く示唆しており、これによって動物性食品を多量に摂取する食生活が及ぼす潜在的影響を、ワンヘルスの観点からより明確にすることが可能となる。
Juliana Minetto Gellert Paris, Timo Falkenberg, Ute Nöthlings, Christine Heinzel, Christian Borgemeister, Neus Escobar
2021/11/06
Changing dietary patterns is necessary to improve the sustainability of Western diets from a One Health perspective Perspective