論文概要
畜産は環境に大きな影響を与えており、これには水の利用に対する影響も含まれる。本研究では、飼料作物のための水使用量と畜産動物の飲料に使用される水量を分析することで、畜産による淡水使用量に関して空間的に明示した推定結果を提供する。
過去40年間で、畜産で利用された年間の水量は1971年の145 km3から2012年の270 km3に増加しており、毎年1.36%の割合で増加してきた。畜産動物の飲料に使用される水量の割合は、畜産による水の総使用量の約10%で比較的安定している。
長期の平均値から見た水利用のホットスポットは、中国東部・インド北部・米国のハイプレーンズなど、いくつかの地域を特定できるが、南米と中央アフリカでは最も急激な増加傾向が見られている。米国では、畜産による水使用量の変化に最も大きく影響しているのは気候変動であるのに対し、中国では飼料作物の作付強度の変化、インドでは土地利用の変化が支配的な要因となっている。
畜産による水利用は、総計で見れば、人為による水利用に関して提唱されている「地球の限界=プラネタリー・バウンダリー」(年間4000 km3)に対して、あまり大きくは影響していない。しかし、我々の分析によれば、この総計値は特に意味があるものではなく、畜産が主な原因となって水を持続的に利用できなくなっている地域は、インド北部・中東の一部・中国北部・アメリカ中部に見いだされる。
過剰な取水のために水生環境を維持するための残存流量が不足している河川があり、これはプラネタリー・バウンダリーが局所的に現出したものと考えられるが、そのうちの7%において限界を越えた原因は畜産にある。さらに34%の河川においては、畜産のみで水のプラネタリー・バウンダリーを超過している。本研究の結果は、食肉産業が水のプラネタリー・バウンダリーに及ぼす影響について、個別の地理的情報を含む新たな知見を提供する。
Guoyong Leng, Jim W. Hall
2020/12/10
Where is the Planetary Boundary for freshwater being exceeded because of livestock farming?