論文概要
男性アスリートがどのような食事を選択しているかは、道徳と栄養に関する議論においてトピックとなりつつある。競技において目標を達成するためにアスリートには動物性食品が必要であるというのが長年のコンセンサスであったが、現在ではこのような考え方に対して疑問が投げかけられている。その背景には栄養学研究の知見にもとづく学術関係あるいは一般的な情報源の存在や、動物性食品が環境に及ぼす影響への懸念がある。
本研究では、国内外で競技を行っているプロ・セミプロの男性アスリートで、雑食またはプラントベース食を採用している13名を対象として半構造化インタビューを実施し、プラントベース食と動物性食品を含む食事に対する認識を調査した。インタビューで得られたデータを質的に評価するために再帰的テーマティック分析を用い、肉食を正当化する態度・食に関して状況化された知識・男らしさを理論的レンズとして用いた。
分析の結果、アスリートにはタンパク質が必要であるという栄養学の議論に対するアスリートの考え方が明らかになったが、プラントベースのタンパク源が適切であるかどうかについては意見が分かれていた。栄養に関するこうした議論は、専門の栄養士・友人・ソーシャルメディアのインフルエンサー・報道機関など、幅広い情報源から得られていた。また、カーニズムの4N理論において「美味しいから」「当たり前だから」というのは、肉食を正当化する一般的な理由であるが、これらは食習慣を説明する動機として「必要だから」よりも強いことが多かった。
こうした考え方はアスリートとしての日常生活に取り入れられており、肉を使った食事が普通であり、プラントベース食は普通ではないという考え方を強化しているのは食をめぐる社会環境や共同の食習慣であることを示している。さらに、肉を食べるのは普通であるという考え方に影響しているのは男らしさの規範であることも示唆している。
インタビューの回答者は、男性にとって肉を食べることは当たり前で男らしいという考え方を否定していたが、その一方で、プラントベースの食生活を忠実に遵守し、理解している男性アスリートは肯定的に見られていた。このことは、動物性食品の消費削減に向けた社会レベルの移行において、アスリートが食生活と男らしさのロールモデルとしての役割を担い得ることを示唆している。
Hilje van der Horst , Annie Sällylä, Yolie Michielsen
2023/08/01
Game changers for meat and masculinity? Male athletes' perspectives on mixed and plant-based diets