論文概要
目的: 赤身肉や加工肉を多く含む食生活は、環境の悪化や温室効果ガス排出、慢性疾患による世界的な負担増に大きく関わっている。これまでに発表された主要な調査報告では、赤身肉・加工肉の消費を世界全体で大幅に削減することが求められており、これは特に高所得国において重要であるにも関わらず、この問題に対する政策的な関心や政治的な優先順位は低い。
デザイン: 赤身肉・加工肉の大量生産・消費による影響については、当該領域で権威ある4つの国際組織*1によって重要度の高い調査報告が発表されている。本研究では、赤身肉・加工肉の削減に関して様々な利益団体が用いてきたフレーミング*2を特定するため、これらの調査報告が公表される前後の数ヶ月間に現れたオンラインニュースメディアの記事に対し、社会構成主義の理論に基づくフレーミング分析を行った。
設定: 赤身肉・加工肉を大量生産・消費する4カ国(米国・英国・オーストラリア・ニュージーランド)。
結果: 調査対象となったニュースメディアの記事は150件であった。これらの記事では、研究者や政策立案者、食肉業界を代表する立場の人々、記事を担当した記者自らの見解が伝えられていた。赤身肉・加工肉の消費削減に関する取り上げ方には、著しい二極化が見られた。食肉業界の人々は、赤身肉・加工肉の削減は「ヴィーガン・アジェンダ」の一部であるとか、少数派のエリートが唱えているといったフレームで語ることが多かった。また、赤身肉・加工肉の削減は、個人の選択や伝統的な価値観を侵害するものとしても描かれていた。
利益団体の多くは、調査報告の信頼性を損なうことを意図して、エビデンスにはコンセンサスがない、あるいは有害なのは畜産や加工における一部の形態にすぎないなどと言及していた。研究者や栄養学の専門家の見解は、調査報告の結果に沿った記事においてのみ引用される傾向が強かった。
結論: 赤身肉・加工肉の削減に関する二極化は、食肉の削減を推進しようとする人々とそれに反対する勢力の間での二元的な対立へとつながっていた。このような分裂があることによって、政治指導者が政策課題としてこの問題に取り組むうえで優先度が低下する可能性がある。状況に合わせてニュアンスをつけたメッセージングを用いることができれば、食肉をめぐる言説における対立を和らげ、赤身肉・加工肉に関連した健康と環境への弊害に対してより有効な取り組みが可能となるであろう。
*1 ここでは、国連食糧農業機関(FAO)・世界保健機関(WHO)・EAT-Lancet 委員会・気候変動に関する政府間パネルの4つの組織を指す *2 メッセージを受け取った相手から感情的反応を誘発したり、意思決定に影響を与えたりするために情報を構成し提示する手法
Katherine Sievert, Mark Lawrence, Christine Parker, Cherie A Russell Phillip Baker
2021/09/30
Who has a beef with reducing red and processed meat consumption? A media framing analysis