論文概要
背景: プラントベースの食事は、認知機能の低下やアルツハイマー病に対する予防効果をもたらす可能性があるが、報告されている観察研究の結果は一貫していない。幼少期の社会経済状況や遺伝による要因は、認知能力と食行動の双方に影響することが知られているが、従来の研究における検証では、これらの要因による影響が分離されていない。本研究では、ふたごの女性を対象として、共通遺伝子型および幼少期の環境要因による影響を統制した上で、地中海食とMIND食*がどのように認知機能と関連しているかを検討した。
方法: TwinsUKコホート研究に登録されている女性のふたご509名を対象として、地中海食とMIND食の遵守度に関する食事スコアを調査した。ベースラインとその10年後(275名)における認知能力の評価には、ケンブリッジ神経心理テスト自動バッテリーを用いた。不均衡の一卵性ふたごにおける比較によって遺伝的要因を分離し、認知機能に対する食事の影響を検証した。10年後の追跡調査において、(食事の遵守度による)微生物群の相対存在量の違いをサンプルの一部を用いて探索した。
結果: MIND食または地中海食のスコアが1ポイント上昇するごとに、対連合学習における誤答には減少が見られ、その減少幅はそれぞれ1.75ポイント(95%CI:-2.96、-0.54、p = 0.005、q = 0.11)、1.67ポイント(95%CI:-2.71、-0.65、p = 0.002、q = 0.02)であった。一卵性ふたごの各ペアにおいて、食事に関する遵守度が高いふたごでは、特に地中海食において空間性記憶スパンが良好に保持されていた(p = 0.02)。その他の認知検査における10年間の変化では、食事の遵守度による有意差はなかった。MIND食の遵守度は、ルミノコッカスUCG-010の相対存在量が高いことと関連しており(0.30%(95%CI 0.17, 0.62)、q = 0.05)、これは10年間における全般的認知機能の低下幅が小さいこととも関連していた(0.22(95%CI 0.06, 0.39)、p = 0.01)。
結論: MINDまたは地中海食は中年期において、特にエピソード記憶と視空間性ワーキングメモリをはじめとするいくつかの認知能力を維持するうえで有益と考えられ、その効果には、食物繊維が多く含まれることや、短鎖脂肪酸を産生する腸内細菌の増加が関わっている可能性がある。今後はより長期の追跡調査によって認知機能を繰り返し測定することで、高齢期において食生活が認知機能の変化に影響を及ぼすかどうかを検証できるであろう。
* 神経系の変性を遅らせるための介入法として、高血圧を防ぐための食事療法(DASH食)と地中海食を組み合わせて考案された食事法(Mediterranean-DASH Intervention for Neurodegenerative Delay)。新鮮な野菜・果物、ポリフェノールを多く含むベリー類、豆類などの摂取を推奨している。
Claire T McEvoy, Amy Jennings, Claire J Steves, Alexander Macgregor, Tim Spector, Aedin Cassidy
2024/01/23
Diet patterns and cognitive performance in a UK Female Twin Registry (TwinsUK)