論文概要
土地利用の変化は、人間の活動に起因する温室効果ガス排出の原因のうち大きな割合を占めており、世界の生物多様性損失の主な要因となっている。土地利用変化に関連した世界のCO2排出と生物多様性の損失における大部分は熱帯諸国で発生しているが、これを実際に推進している要因は北半球に存在している可能性があり、特に大量の農産物を輸入していることがその原因となっている。
本研究の目的は、ドイツにおける動物性食品の消費によって生じる土地利用変化の影響を定量化し、これを貨幣金額として算出することであり、これに続いて、動物性食品に依存しない食生活への移行がもたらす潜在的な便益を探索する。土地利用の収支・温室効果ガス排出量・現物取引に関するモデルを組み合わせたモデリング手法により、ドイツにおける動物性食品の消費によって起こる土地利用変化への影響を算出し、これに関連したCO2排出量・森林破壊面積・生物多様性損失への影響を測定した。真のコスト会計*1 のアプローチに従い、土地利用変化による影響を貨幣に換算し、ドイツにおける動物由来製品消費に対する外部コストを推定した。
その結果、2013年から2016年の間に、こうした動物由来の製品の消費が年間16.4ヘクタールに及ぶ森林破壊の原因となっていることがわかった。分析対象となった6種類の畜産物のうち、森林破壊の割合が最も大きいのは牛乳(35%)と豚肉(33%)の消費であった。しかし、土地利用変化に関連するCO2排出量では、牛肉の消費によるものが相対的に最も高く、1トン当たりで0.75 t CO2となっていた。
ドイツの食肉製品消費による土地利用変化関連の外部性*2 は、年間で11億ユーロの社会的コストをもたらし、これに加えて5億ユーロに相当する生物多様性の損失がある。また、土地利用変化に関連するCO2排出量では、ドイツ国内で生産される製品に比べて、国外から輸入される動物由来製品によるもののほうがやや多いことも明らかになった。
全体として、早急な政策措置と消費者行動の転換によって、ドイツにおける動物由来製品の消費が持続可能性に許容できないほどの悪影響を及ぼさないようにすることが必要である。
*1 食品の真の価格については以下を参照 https://www.jircas.go.jp/ja/program/proc/blog/20210625 *2 ある経済主体の活動が、その活動とは直接的関係がない他の主体や社会の便益や費用などを発生させること(非営利用語辞典より抜粋)
Moritz Hentschl, Amelie Michalke, Maximilian Pieper, Tobias Gaugler, Susanne Stoll-Kleemann
2023/05/11
Dietary change and land use change: assessing preventable climate and biodiversity damage due to meat consumption in Germany