論文概要
※本記事はこの記事の最下部にある論文のFaunalyticsのリサーチャーによる要約を、同団体の許可を得て翻訳したものです。
多くの国で、人間以外の動物の有感性*を認める法律が制定されている。 しかし、これは動物の生を向上させる最も効果的な方法なのだろうか?
[訳注] *有感性(sentience)は、喜びや苦しみなどポジティブ/ネガティブな価値をもった意識状態をもつ能力のこと。もしわかりにくければ以下では「感覚」と置き換えて読んでもらっても構わない。
科学界は、人間以外の動物の多くが、意識や感情などの認知状態を経験する有感性をもつ存在であることを広く認めている。 これを受けて、動物の有感性を認める法律を制定した国もある。 この法律は動物に対する態度が変化している徴候を示しているが、その価値は単に象徴的なものに留まるのだろうか? 言い換えれば、その国で暮らす動物たちの生活を向上させる効果的な方法なのだろうか?
本報告書では、アニマル・アスク(Animal Ask)の研究者が、有感法に関する既存の文献、事例研究、専門家へのインタビューを分析し、有感法が動物の生にどの程度プラスの影響を与える可能性があるのかを明らかにする。
研究者はまず、有感法を解釈する2つの大まかな方法を特定することから始めた。 そのうち一つは、有感法は単に象徴的なものである、という解釈である。有感法は動物が有感的な存在であるという科学的事実を述べるだけで、それ単独では実践的な価値をほとんど持たないかもしれない。例えば、ニュージーランドの動物福祉法は脊椎動物と一部の無脊椎動物に有感性を認めているが、この認識は動物の権利には影響しないとも述べている。 それゆえ[論文の]著者によれば、この法律は動物を所有物として扱うことから脱却できておらず、動物の生に必ずしも良い影響を与えない。
しかし、有感法が実用的な価値を持つ可能性もある。 例えば、すぐに結果が出ないということは、各国がそれを受け入れやすいということであり、ひとたび法律が施行されるならば、動物擁護家たちは動物のために動物のために生かしやすい勝利を得ることがもっと簡単になる。 タコやロブスターのように、有感性をもつと多くの人には考えられていない動物についても、[その有感性が]一般に受け入れられる可能性がある。 最後に、ある国が有感法を制定することで、他の国がそれに倣うべき先例となる可能性もある。
著者は、欧州連合(EU)、英国、ニュージーランド、米国、ケベック州の例から、有感法が実際に与える影響を調査した。 その結果、法制化のほとんどのケースは、その大部分が象徴的なものであることがわかった。 例えば、E.U.の動物有感法は、2000年代初頭の口蹄疫パンデミックにおける牛の大量殺戮を防ぐことはできなかった。 また、英国は脊椎動物、十脚甲殻類、頭足類の感覚を認め、独立した動物感覚委員会を設置することで前進しているように見えるが、この委員会の初代委員長は、動物の有感性や福祉に関する中立的な専門家ではなく、農家である。
しかし、動物有感法制が動物に実際的な利益をもたらした例もある。 その一例が、2013年に動物に有感性を認める法律を制定したアメリカのオレゴン州である。 オレゴン州最高裁判所は、いくつかの判決でこの法律を利用し、動物虐待者に対する処罰を強化したケースもある。 また、動物は有感性をもつ生き物であるとして、ネグレクトから動物を救う人々を保護したこともある。
ひとつの懸念は、有感法が「人道ウォッシング」の一形態になりうるということだ。 象徴的な法律を制定することで、各国は動物が今も苦しんでいるという現実を隠すために有感性という言葉を利用することができる。言い換えれば、人々が動物の苦しみを最小限に抑え、できるだけ苦痛を与えないように殺処分する限り、搾取的な行為を続けることができると解釈する国もあるかもしれない。 第三の懸念は、法律が曖昧すぎて実効性がないということである。 もし有感性に関する法律が有感性を明確に定義していなければ、各国が必ずしも有感性について、動物を助けるような解釈をするとは限らない。
全体として著者は、有感法は動物の道徳的地位に関する態度を変えるための有用な手段かもしれないが、擁護者たちは、それが確立された後も、現実的な変化のために働き続ける必要がある、と示唆している。 そのための一つの方法は、有感法に反映されているその国の価値観と、動物福祉実践に反映されているその国の行動との間のギャップを訴えることである。 また別のやり方は、法解釈により価値観と行動をより一致させる判決を下すよう裁判所に迫ることである。
Max Carpendale
Does sentience legislation help animals?