動物福祉の計算モデル 動物の感覚意識・感情・ウェルビーイングの認知アーキテクチャに向けて

論文概要

 

動物のウェルビーイングを理解するためには主観的現象と感覚意識を考慮する必要があるが、こうした内的な特性は直接に観察できないため、これは困難な課題である。動物が持つ何らかの動機や感情、これらに関連する内的状態は、実験的に選択や学習、汎化や意思決定の過程を操作することで推測することが可能である。しかし、ヒトの意識に関する神経生物学研究には大きな進展があるにもかかわらず、動物の意識は依然として謎に包まれている。

本稿では、動物行動学と動物福祉、計算論的認知科学が融合することから動物の福祉と有感性に関する計算論的科学が始まることを提唱する。認知科学の概念に基づき、主観的現象とは「第一人称の視点で存在し、主体としての動物と不可分な生体のプロセスまたは状態」であるとして機能的・汎用的に定義する。次に、主観的過程と感覚意識を単純な形でモデル化するための認知アーキテクチャについて概説する。これには、進化における適応過程で獲得された能力である注意機能のトップダウン調節や予測処理、再帰的計算に基づく主観的シミュレーションなどが含まれる。

続いて、基本的な自己意識やグローバルワークスペース、クオリアの統一性と連続性といった主観的経験の重要な特性がこのアプローチでどのように扱われるかについて述べる。このことは、動物のニーズや主観的状態、感覚意識、ウェルビーイングなどの過程をモデル化するための理論的フレームワークとなるものである。

 

原文タイトル:Computational animal welfare: towards cognitive architecture models of animal sentience, emotion and wellbeing

論文著者:Sergey Budaev, Tore S Kristiansen, Jarl Giske, Sigrunn Eliassen

公開日: 2020/12/23 

論文URL:https://doi.org/10.1098/rsos.201886

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