ー牛乳を「給食の前提」にしてきた世界的標準を、いま見直すときー
米国で起きた制度転換
米国のFISCAL法案(Freedom in School Cafeteria and Lunches Act)をめぐる一連の動きは、牛乳を学校給食の「前提」としてきた制度が、米国で公式に見直される転機となった。
植物性食品を推進する非営利団体Switch4Goodの公式キャンペーンページによれば、FISCAL法案は2025年12月15日、米国下院を通過した。
法案は、
- 連邦補助の学校給食制度(NSLP:National School Lunch Program)において
- 牛乳を事実上の必須項目としてきた従来の扱いを見直し
- 医師の診断書がなければ認められなかった植物性ミルクなどの代替選択肢を、より広く認める
ことを目的とした内容を含んでおり、Switch4Goodは、この法案を
“ending the milk mandate in schools”
(学校給食における牛乳義務を終わらせるもの)
と位置づけている。
下院可決後、法案は大統領署名待ちの段階に入った。そして2026年1月14日トランプ大統領は
「Whole Milk for Healthy Kids Act(健康な子どものための全乳法)」に署名し、同法が成立した。
この法律は名称こそ「全乳(Whole Milk)」を前面に出しているが、議会審議の過程で、FISCAL法案の一部内容が組み込まれたと説明されている。
具体的には、
- NSLPにおける提供可能な飲料の選択肢の扱い
- 乳製品に関する硬直的な規制の見直し
- 州・学区レベルでの裁量拡大
などが含まれ、牛乳を唯一の基準として固定する制度設計が緩和される方向へと舵が切られた。
何が「変わった」のか
この一連の動きで重要なのは、「牛乳が禁止された」のでも、「牛乳が不要になった」ことでもない。全世界的になぜか牛乳が給食のベースに据えられていたことが、変わったということだ。米国でも、
- これまでNSLPでは、牛乳が事実上の必須構成要素とされ
- 植物性ミルクは「例外的対応(医師の診断が必要)」に押し込められていた
- その結果、
- 乳糖不耐症
- 乳アレルギー
- 宗教的・倫理的理由
- 環境・動物福祉の価値観
を持つ子どもたちにとって、選択の自由が制度上ほぼ存在しなかった
FISCAL法案と、それが一部反映されたとされる今回の法改正は、この「牛乳を前提とする構造」そのものを緩める方向への転換を意味している。
Switch4Goodをはじめとする関係者は、これを
「学校給食において、牛乳を“唯一の正解”として扱う時代の終わり」
と評価している。
米国:アスリートの異議申し立て
米国では、学校給食(National School Lunch Program)において、長らく牛乳の提供が事実上の必須条件とされてきた。
植物性ミルクは原則として「医師の診断書がある場合の代替」に限られ、多くの子どもにとって選択肢ではなかった。
この構造に最初に異議を唱えた中心の一つが、プロアスリートたちだった。その中心となったのは、アニマルライツセンターとTHLJで共同主催した東京五輪のアニマルウェルフェアキャンペーンで力を貸してくれたオリンピック自転車競技選手でオリンピック銀メダリスト、Switch4Good.orgの創設者ドッティー・バウシュ氏だった。
NFL、NBA、五輪レベルのアスリートの中から、
- 乳製品を摂らずに最高のパフォーマンスを維持している
- 植物性食が回復力や持久力に寄与している
と公に語る人物が現れ、「牛乳=健康」という固定観念に疑問を突きつけた。
彼らは単なるライフスタイルやアスリートとしてのパフォーマンスの話ではなく、
- 乳糖不耐症の子どもが多い現実
- 乳アレルギーという主要アレルゲンの存在
- 黒人、アジア系、先住民コミュニティでの消化不耐の高さ
といった人種的・生物学的多様性の問題として、制度の不公正さを訴えた。
運動は議会へ──「選べないこと」が問題だという論点
この流れを受け、動物福祉団体、栄養学者、医師、保護者、そしてアスリートが連携し、「牛乳を禁止しろ」ではなく、「牛乳が義務ではいけない」という明確な要求が形成されていく。
焦点は一貫していた。
- 子ども自身や家庭が選べない制度は不当である
- 栄養は牛乳“だけ”で達成されるものではない
- 植物性ミルクという代替が存在する時代に、国家が特定の動物性食品を強制する合理性はない
この議論はついに議会に持ち込まれ、
学校給食における牛乳の「義務」そのものを外す、あるいは緩和する法改正が進められた。
そして、こうした制度変更は最終的に大統領の署名を経て法律として位置づけられる段階に至った。
重要なのは、「牛乳を唯一の正解として制度化する時代の終わり」を意味している点だ。
米国だけの話ではない
牛乳を給食のベースにする制度は、米国だけでなく、日本、アジア、欧州を含む多くの国で「世界的標準」として広がっている。
しかし今、その標準は複数の観点から揺らいでいる。
1. 子どもの健康
- 乳糖不耐症は世界的に多数派
- 牛乳は主要アレルゲン
- 必須栄養素は植物性食品からも十分に摂取可能
2. 多様性と包摂
- 人種的・文化的に牛乳が適さない子どもがいる
- 宗教・倫理・家庭の価値観が尊重されない
3. 動物福祉・動物の権利
- 乳産業は母牛と子牛の分離を前提とする
- 世界的に見ても乳牛のアニマルウェルフェアが守られているとは言えない
- 学校給食という公共制度が、その産業構造を支えてきた
4. 気候変動
- 乳製品は温室効果ガス排出が高い
- 子ども向け公共調達は、食と気候の将来を形づくる
給食で必要なことは産業を守ることではない
米国で起きた制度転換が示しているのは、「牛乳を飲むか飲まないか」という二項対立ではない。
変えるべきなのは、牛乳を“給食の前提・基準・標準”として固定してきた制度そのものである。
選べること。
強制されないこと。
多様な身体、文化、倫理、そして地球環境を前提に制度を設計し直すこと。
米国で、アスリートの声から始まり、議会を通り、法律として義務が外れたこの流れは、世界の給食制度にとって一つの明確な転換点だと言える。
給食は、単なる栄養補給ではない。
それは、どんな社会を次の世代に手渡すのかという価値判断そのものだ。












