自然、人、鶏の調和を目指し全羽ケージフリーに切り替え奮闘中、宮本養鶏

愛知県田原市に位置し、40年以上の歴史をもつ宮本養鶏場なごみたまごさん。農園を営む宮本健太郎さんは、ケージ飼育の養鶏場での勤務時に起こったある出来事をきっかけに平飼いへと舵を切り、現在は、農園の全羽を平飼いに移行すべく、奮闘を続けられています。英国の動物福祉団体が主催するグッド・エッグ・アワード2023を受賞し、国際的な評価を得た「なごみたまご」に迫ります。

※英国グッド・エッグ・アワードとは、ケージフリー卵やその製品の普及に取り組む企業を表彰するアワードです。このアワードは、英国の動物福祉団体Compassion in World Farmingが2007年に設立し、動物福祉の観点からケージフリー卵の普及を目指すものです。受賞企業は、2028年までにケージフリー調達方針を採用することを約束しており、鶏の行動が制限されるシステムを使用しないことを宣言しています。宮本養鶏場は、平飼いブランド「なごみたまご」の創設以来、イベント活動やメディア掲載を通じて、鶏の習性や卵生産の現場についての知識の普及に貢献し、消費者の卵を選ぶ判断基準に影響を与えてきました。2023年の選考では鶏への愛情と理解をベースにした高い基準の平飼い養鶏と、平飼いブランドの同社内での事業拡大計画が評価されました。

Q:農園名である「なごみたまご」に込められた思いを教えてください。

A:「なごみたまご」は「調和の和」に由来します。3つの調和とは、自然と調和・人と調和・鶏と調和。自然環境を大切に。人に優しい生産現場。鶏が幸せに暮らせる生活環境。それらを、毎日意識して取り組めるようにという思いから名付けました。

Q:平飼いを始められて何年になりますか。また、そのきっかけを教えてください。

A:2017年4月に始めて、もうすぐ9年になります。きっかけは、ケージ飼育の作業中に撒いた殺虫剤が自分にかかってしまい、一週間ほど動けなくなったことでした。「このままのやり方では、自分は養鶏を続けられない」と思い、別の方法を探していました。その時、市街地で飼えなくなった鶏を”育ててほしい”といとこが連れてきてくれて、せっかくなら平飼いで、と始めてみたんです。最初は、空いていた畑の小屋で飼育しました。すると、産まれてきた卵が今まで食べていた卵とは比べ物にならないほどの美味しさで感動しました。その感動をたくさんの人に伝えたい、そんな思いが平飼い飼育を決意した一つ目の理由です。もう一つの理由は、鶏が砂浴びをしてダニを落とす姿を目の当たりにしたことです。「殺虫剤を使わずに育てられるんだ」と気づきました。これら二つの理由から、平飼いで向き合っていこうと決めました。

Q:ケージ飼育から平飼いに移行される時にお感じになったことを教えてください。

A:ケージ飼いから平飼いに移行して、僕の中で大きく変わったのは、”管理する”から”生活してもらう環境をつくる”へという意識でした。ケージ飼育では、①何グラムの餌を与える②60gの卵を540日産ませる③そして計画通りに淘汰する…こうした”生産管理”が中心になります。そのやり方が悪いというより、システムとしてそう求められているんですよね。一方で平飼いは、まず鶏が健康で暮らせることが前提になります。ストレスが少なく、体をしっかりつくれる環境を整える。すると自然と、力強い卵を産んでくれるようになる。「どう管理するか」から「どう生きてもらうか」へ。この感覚の違いが、僕にとって一番大きな転換でした。

Q:ケージ飼育と平飼いの鶏で、様子が違う点を教えてください。

A:ケージの鶏は、動きが少なくて、体調が良いのか悪いのか判別しづらいです。どうしても、「管理の作業が滞りなく進むかどうか」という目線になりがちでした。平飼いはまったく逆で、鶏たちが”動き”で体調を教えてくれます。元気な子はよく走るし、少し調子を崩している子はすぐ表情に出る。管理の”見方”が変わったというのが、一番大きいです。

Q:平飼いにしてから何か課題がありましたか?もしあれば、それをどのように乗り越えましたか?

A:正直、想像以上にケージ育ちの鶏たちが不健康に見えました。30センチほどの段差さえ跳べない。鶏は本来、軽くジャンプできる生き物なのに。「ごはんを自分で食べに行く」「水を飲みに行く」という行動もできませんでした。言い方は難しいですが、人でいうと”寝たきり”に近い感覚です。なので、鶏舎の中を工夫して、まず”自立できる体”づくりから始めました。少しずつ動ける距離を増やしながら、安全に動ける環境へ調整していきました。「この子たちは平飼いで暮らせるようになるんだろうか?」「救えるんだろうか?」そんな不安もありました。少しずつ少しずつ、”外に出る”ことも教えました。最初は歩き方もぎこちなかったけど、時間をかけると体が思い出してくれるんです。その瞬間を見ると、本当にホッとします。

Q:ケージ飼育にはどんな問題点がありますか。

A:実際に平飼いへ移した時、「あぁ、ケージの中ではこういう体で卵を産んできたのか…」と初めて気づきました。ケージにいると、健康かどうかも分かりづらいんです。平飼いの空間で初めて、”本来の鶏の姿”が分かるというか…。比較してはじめて気づくことが多いと感じています。

Q:日本ではおよそ98.5%の採卵鶏がケージ飼育されている現状について、どのように思われますか。

A:ヨーロッパではケージをやめる流れが進んでいますし、東京オリンピックでは選手が日本の卵を避けた、という話も耳にして「なぜだろう?」と思いました。何を選ぶかは本当に人それぞれです。ただ、”なぜ世界がケージを選ばなくなっているのか”そこだけは、知っておいて損はないと思います。知った上で選ぶ。それが一番大事だと感じています。

Q:卵は物価の優等生と言われてきましたが、それについてどうお感じですか?

A:昔はそうだったと思います。でも、今は少し違う見方が必要かな、と思っています。“家族の健康のため”という視点で見たとき、本当に優等生なのかどうか。そこは立ち止まって考える価値があると思っています。

Q:今の「安さ」が将来の「リスク」になるというのは本当ですか?

A:はい。不自然な環境での薬剤多用は「薬剤耐性菌」を生み、2050年には人類最大の死因になると予測されています※。私たちが将来病気になったとき、薬が効かない世界が広がるかもしれないのです。また、安価な輸入飼料への過度な依存は海外の水源汚染を招き、地球規模の資源問題を加速させます。目先の「安さ」の代償に、私たちは未来の命を支払っている可能性があることを知ってほしいのです。

Q:「なごみたまご」を買って行かれる方の反応を教えてください。

A:「安心する」「信頼して買っている」そう言ってくださる方が多くて、すごく励みになります。

Q:平飼いが広まっていくためには、何が必要だと思われますか。

A:ひとつは、海外の生産者・消費者の考え方を知ることだと思います。「なぜケージを選ばないのか?」それを知ると、価値観がずっと理解しやすくなるはずです。もうひとつは、生産現場の改善。僕自身、今も試行錯誤しながら取り組んでいます。

Q:平飼いが広まっていくための「生産現場の改善」を詳しく教えてください。

A:”動物福祉のために無理をする”ということではなくて、生産者も企業も、お互いに利益が出て続けられる形をつくることだと思っています。僕自身、ケージから平飼いに移行して、想像以上に大変でした。体力的にも経済的にも負担が大きくて、「効率や利益を重視するケージ飼いから、命を大切にする平飼いへの移行は、技術よりも“価値観の転換”なんだ」と痛感しました。価値観が絡むからこそ、生産者を責めるのではなく、みんなにとって”やる理由”が必要なんです。その一つのカギになるのが、企業や飲食店、ホテルなどから出る”調理残渣”を鶏の餌として活用する仕組みです。食べられるのに捨てられてしまう調理残渣をいただき、適切に処理して鶏に与えることで、①企業は食品廃棄コストを大きく削減できる②生産者は高騰する配合飼料の負担を減らせるという”双方にとってのメリット”が生まれます。実際にこのやり方を取り入れて、年間400万円の廃棄コスト削減、600万円の卵の収益を生み出した企業もあります。生産者の負担を減らすだけではなく、企業の社員さんや利用者の健康にもつながる。そういう循環ができると、自然と平飼いが広がると思っています。2050年には薬剤耐性菌の問題が深刻化すると言われていますし、長い目で見ても、配合飼料だけに頼らない仕組みは必要になってくるはずです。だからこそ、これからは「みんなが得をする」生産方法を提案し、つくっていく養鶏にシフトしていきたい…そんな思いで取り組んでいます。

Q:なぜ「アニマルウェルフェア」が必要なのですか?

A:決して「動物がかわいそうだから」という感情論だけではありません。実は、私たち人間が将来も健やかに生きるための「生存戦略」なのです。冒頭でもお話しましたが、私はかつてケージ飼育の現場で殺虫剤を浴び、一週間動けなくなった経験があります。本来、鶏は砂浴びで寄生虫を落としますが、動けない環境では薬に頼らざるを得ません。動物が本来の姿で生きられる環境を整えることは、生産者の健康、そして食べるみなさんの健康を守ることに直結しています。

Q:消費者へのメッセージをお願いします。

A:卵や食べ物を買う時、「何のために選んでいるのか?」そこを大切にしていただけたら嬉しいです。食べ物の背景を知ることは、あなた自身や家族を守ることにつながると思っています。今日食べる卵や農産物が、どんな環境で育ち、何を食べてきたか調べてみてください。その食べ物から、ほんとうに必要な栄養が摂れているでしょうか?効率や安さを求めた結果、私たちは何を失いかけているのでしょうか?背景を知り、選ぶこと。それが2050年も「薬が効く」未来を保ち、自分自身の命を守る第一歩になります。

※2050年まで薬剤耐性菌の死者3900万人 米ワシントン大などの国際チームが発表

アニマルライツセンター新聞部

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