「動物の福祉を重視すべきだと思いますか?」価値観の活性化を通じて認知的不協和を引き起こさせると、ベジタリアン的な選択肢を促進できる

“Do you consider animal welfare to be important?” activating cognitive dissonance via value activation can promote vegetarian choices

Emily P. Bouwman, Jan Willem Bolderdijk, Marleen C. Onwezen, Danny Taufik

2022/09/15

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0272494422001165?via%3Dihub

論文概要

 

要約
地球全体の肉消費量を減らせば、動物福祉、環境問題、健康問題を改善するこができる。多くの人々がこのことを認識しているにも関わらず、肉を食べ続けている。こうした人々が肉食に関する自分自身の矛盾した認識に気づくとき、例えば、動物福祉と肉食の両方ともが重要であると気づいたときなど、「認知的不協和」と呼ばれる嫌悪感を引き起こすことがある。我々は、認知的不協和を利用して、望ましい選択肢を促進できるかどうか、を調査する。より具体的には、動物の福祉を重視すべきと思っているかどうかをじっくりと考えるように促すことにより、人々がすでに持っている動物福祉の価値観が活性化されて認知的不協和が引き起こされ、それによりベジタリアン食の選択を促進できるかどうか、を調査する。オンラインでの調査を行ったところ、我々の価値観活性化戦略は、人々が肉食のことを考える際に、実際に認知的不協和を感じさせ、それによってベジタリアン食を食べる意思を増加させた、という結果になった。この傾向は、とりわけ自分を非常に環境保護派だと考えている人々の間で顕著であった。その後、レストランにおける実地調査を行ったところ、我々の価値観活性化戦略は、ベジタリアン・バーガーの注文数の割合を(ほぼ)2倍にした。この調査結果が示すことは、人々に動物の福祉を重視すべきかをじっくりと考えるように促すことで、自分の内面にある肉食に関する価値感の対立に直面させ、それによりベジタリアン食を選択するよう導くことができる、ということである。

1.概要

  • 人々は正しい行いをする自分自身のイメージを維持しようと努力するため、肉食が暗に意味するところ(すなわち、肉食は動物福祉を損なう、ということ)を深く考えるときに、最も認知的不協和を味わう。
  • 認知的不協和は行動様式の変化を引き起こすためのエネルギー源となる可能性を秘めている。
  • 人々は、不協和感を味わわずに肉食を続けるために順応性戦略(例えば、肉食がもたらす道徳上の悪影響については故意に考えないようするという、「戦略的無視」として知られる方法や、肉食と正しい人間であることは両立可能であると自分を納得させるという、「意欲的理由づけ」とも呼ばれる方法)を取ろうとする。
  • よって、人々を肉消費を減らす方向へ導く上での主な課題とは、肉消費の減少に結びつく可能性の高い認識、すなわち人々が持つ動物福祉の価値観を活性化させることで、認知的不協和を引き起こすことである。
  • しかし、単に人々に肉食は動物の福祉を損なうことを伝えるだけでは、行動様式の変化を促進するには不十分である。
  • そのようにして人々に行動様式の変化を訴えることは、直接的な説得の企て、あるいは巧みに言いくるめようとする試みと把握され、結果的に、行動様式の変化ではなく、心理的リアクタンスを引き起こす。心理的リアクタンスとは、人が自分の自由が脅かされたと感じときに生じる意欲的な状態のことであり、要請されたこととは正反対のことをするように動機付けしてしまう可能性がある。
  • 我々が提案するのは、人々に動物の福祉は重要ですよ、と訴えるのではなく、動物の福祉は自分自身にとって重要であるか、についてじっくり考えるように促すことで、心理的リアクタンスを引き起こすことなく、人々がすでに持っている動物福祉に関する価値観に明確に焦点を当てさせることである。その結果として、認知的不協和から行動様式の変化によりつながりやすくなる。
  • 我々の価値観活性化戦略がベジタリアン食の選択へ導くことができるかどうかを確かめるため、オンラインでの調査と実地での調査の2つを実施した。

2.調査1:オンラインでの調査

  • オンラインの調査では、価値観活性化戦略の内面的有効性を調査した。肉を食べる被験者たちを、動物の福祉を重視すべきかどうかをじっくり考えさせるように導くことで、ベジタリアン食を食べる意志が増すかどうか、またその効果が認知的不協和によるものかどうか、をテストした。
  • 動物園を舞台とした場合(人々に動物福祉のことを思い出させる)と、病院を舞台とした場合(人々に健康のことを思い出させる)を比較した。人は動物園の動物たちに取り囲まれていると、動物たちは知的で、多くの点で人間と類似していることを思い出し、その結果、肉食をしようとする決意と、道徳的に正しい自己イメージを保ちたいという欲求とを切り離すことが心理的に困難となるだろう、と予測した。従って、動物園を舞台とした場合に、価値観活性化戦略がとりわけ効果的になるだろいうと予測した。
  • これに加えて、肉食者たちは、実際に計略的に情報を無視するかどうか、このことが認知的不協和とベジタリアン選択にどのように関連しているのか、さらに、自分は環境保護派だと強く認識している人は認知的不協和への反応として行動様式の変化を引き起こしやすいかどうか、も調査した。

・実験計画と手順

  • オンラインでの調査は、3つの価値観活性化戦略(動物福祉、健康、なし)と2つの舞台(動物園、病院)をかけ合わせた6種類の被験者間計画によって実施され、各被験者たちはランダムに6種類の条件のどれかひとつに割り当てられた。
  • 被験者を選ぶ際には、次のような選別基準を設定した:被験者は18歳以上でなければならず、また肉を食べる人でなければならない。
  • 舞台の演出は、病院、あるいは動物園の画像1枚と、次のようなテキストで構成された。「あなたは今、動物園/病院にいると想像してください。あなたは今朝、[キリン、パンダ、トラなど様々な動物を見るために/不健康な生活が原因で病気になった家族のお見舞いのために]ここにやって来ました。ここにいる間に、あなたは空腹になり[動物園/病院]内のレストランで昼食をとることにしました」舞台演出用の画像については図1を参照のこと。
  • 舞台演出に続いて、被験者に動物の福祉、あるいは健康の重要性について考えるような質問をする(「動物の福祉を重視すべきだと思いますか?」または「健康を重視すべきだと思いますか?」)。被験者はこれらの質問に対して「はい」または「いいえ」と回答することができ、「いいえ」と回答した被験者は、価値観の活性化がまったく発生しなかったものとして、分析対象から除外された。全被験者のうち、1/3はこれらの質問をされずに、対照群として機能するように取り扱われた。
  • 認知的不協和感は、7段階のリッカート尺度(1は「まったく感じない」、7は「非常に感じる」)で回答する3つの項目を用いて計測された。被験者は「あなたは[動物園/病院]で肉入りの昼食を選択する際に、次に挙げる感情をどのくらい感じると思いますか?」と質問される。感情の項目としては、「不快感」「不安感」「煩わしさ」の3つであった。
  • ベジタリアンランチを食べる意志は、7段階のリッカート尺度(1は「まったく当てはまらない」、7は「完全に当てはまる」)で回答する3つの項目を用いて計測された。被験者は「以下の質問は[動物園/病院]内のレストランでのあなたの昼食の選択に関する質問です」というテキストが示される。質問の項目としては、「私はベジタリアンランチを選ぶつもりである」「私はベジタリアンランチを選ぼうかどうか考えているところだ」「私は絶対にベジタリアンランチは選ばないつもりだ」の3つであった。
  • 自分は環境保護派だという認識は、7段階のリッカート尺度(1は「まったく当てはまらない」、7は「完全に当てはまる」)で回答する3つの項目を用いて計測された。項目は「環境にやさしい行動をすることは、自分自身の中で重要な意味を持っている」「私は環境にやさしい行動をするタイプの人である」「私は自分自身を環境にやさしい人だと思っている」の3つであった。
  • 計略的な無視は、次のような仮定的状況を用いて計測された:「[動物園/病院]内のレストランで、昼食の選択肢として2種類のバーガー(ベジタリアン・チーズバーガーまたはビーフ・チーズバーガー)が選べる割引きメニューを見つけました」そして被験者は次の質問をされる:「あなたはこれらのチーズバーガー(ベジタリアンまたはビーフ)に関してもっと知りたいと思いますか?」被験者は「もっと知りたいと思う」をクリックすると、これら両方のバーガーに関する健康、動物福祉、生産者に関する詳細情報を得ることができる。被験者は詳細情報はいらない、という選択をすることも可能である。
  • 最後に、被験者は割引きメニューのメイン・ディッシュとしてビーフ・チーズバーガー、またはベジタリアン・チーズバーガーのどちらを選ぶか、という質問をされ、これによってベジタリアン食の嗜好を計測した。

図1 動物園と病院の舞台演出用に用いた画像
注:テキストは日本語に翻訳されている。実際の画像のテキストはオランダ語で書かれていた。

・結果

  • 以前に行われた研究結果と同じく、大部分の肉食者(94.4%)は動物の福祉を重視すべきだと思っているという結果となった。
  • 動物の福祉の重要性について熟考した被験者は、健康の重要性について熟考した被験者や、対照群の被験者よりも、肉食に関する認知的不協和感を示す割合が高かった(図2を参照)。
  • さらに重要なことは、肉食に関する認知的不協和を強く感じた被験者は、ベジタリアンランチを食べる意志が高まったことを示した(図3を参照)。
  • 価値観活性化戦略が、肉を食べることに関する認知的不協和によりベジタリアンランチを食べる意志に与える影響についての媒介モデルについては図4を参照のこと。
  • 動物の福祉の重要性について熟考した被験者たちが認知的不協和感が増加し、その結果としてベジタリアン食を選ぶ意志が増加たことを示した一方で、健康の重要性について熟考した被験者たちには同じことが当てはまらないことが示された。
  • 自分は環境保護派だと強く感じている被験者には動物福祉の価値観活性化戦略がさらに強い効果をもつかどうかを調べるため、調整媒介モデルを用いた。分析結果は図5を参照のこと。
  • 認知的不協和を引き起こすことがベジタリアン食を選択する原動力となる一方で、認知的不協和が計略的無視を行う原動力にもなり得ることが以前の研究で示され、我々の調査でもこのパターンが見られた。いつも肉を食べると回答した被験者たちは、時々肉を食べると回答した被験者たちと比べると、あまり自発的に動物福祉に関する情報を調べようとしなかった。

図2 3種類の価値観活性化条件のそれぞれにおける肉食に関する認知的不協和の平均スコア
注:7段階のリッカート尺度(1は「まったく感じない」、7は「非常に感じる」)により計測された。図中のエラーバー(誤差範囲を示す棒)は95%の信頼区間に基づく。

図3 3種類の価値観活性化条件のそれぞれにおけるベジタリアン食を選択する意志の平均スコア
注:7段階のリッカート尺度(1は「まったく当てはまらない」、7は「完全に当てはまる」)により計測された。図中のエラーバーは95%の信頼区間に基づく。

図4 価値観活性化戦略が、肉を食べることに関する認知的不協和によりベジタリアンランチを食べる意志に与える影響についての媒介モデル

図5 動物福祉の価値観活性化戦略が、肉を食べることに関する認知的不協和によりベジタリアンランチを食べる意志に与える影響についての調整媒介モデル(自分を環境保護派と認識しているという条件つき効果の場合)

3.考察

  • オンラインでの調査結果は、被験者に動物の福祉の重要性についてじっくり考えさせることで、認知的不協和を発生させ、ベジタリアン食を選択する原動力となることを示した。
  • 自分を環境保護派だと強く認識している被験者の場合、とりわけ効果が強かった。
  • 調査1から得られたデータは、肉食に関する認知的不協和は、人々を計略的無視にも行動様式の変化にもどちらにも駆り立てる可能性があることを示した。

4.調査2:実地調査

  • 調査2では、オランダの動物園 Ouwehands Dierenpark 内のレストランにおいて実地調査を行った。我々の目的は、調査1での調査結果を実生活の設定において模倣することにより、我々の価値観活性化戦略の外面的有効性を調査することであった。
  • 3種類の宣伝資料(それぞれポップアップ広告と同内容のポスター)を作成し、1)単に宣伝資料を見せるだけの場合と、2)我々の価値観活性化を宣伝資料に含めた場合とで、ベジタリアン・バーガーの注文数の割合が増加するかどうか、を検証した。

・実験計画と資料

  • 実地調査では、ポップアップ広告をレジのとなりに配置し、同内容のポスターをカウンターをはさんで店員がいる側のメニューパネルの下2カ所に設置し、購買客がカウンターで注文するちょうどそのときに目に入るようにした(図6)。
  • 4種類の実験条件を用いた。まず実験の対照条件として、宣伝資料(ベジタリアン・バーガーの販売を宣伝するようなバナーやポスター)はまったく用いず、販売されたベジタリアン・バーガーの割合を観察するだけに留める、という条件を設定した。次に、実験条件の第一条件として、価値活性化戦略(「動物の福祉を重視すべきだと思いますか?」)を宣伝資料のメッセージとして用いた。また、単なるベジタリアン・バーガーの販促物の存在による効果を排除するために、第二条件を設定した。第二条件では、購買客は動物福祉が重要であるかどうかをじっくり考えるように促されることなく、ベジタリアン・バーガーが購入可能であるという事実のみを思い出させるメッセージ(「簡単な選択:同じ価格で動物にやさしい選択ができる」)を用いた。実験計画を完成させるために、第三の条件を設定した。この条件では、第二条件のメッセージと第三条件のメッセージの両方が宣伝資料上で用いられた。
  • この実験で用いた宣伝資料については、図7を参照のこと。
  • これらの宣伝資料は、実地調査後のオンライン調査で再利用された。第一条件の価値観活性化戦略メッセージ付きのポスターを見た被験者たち、および第三条件の両方のメッセージ付きのポスターを見た被験者たちは、第二条件の別のメッセージ付きのポスターを見た被験者たちよりも、肉食に関する認知的不協和感を強く感じた。すなわち、価値観活性化戦略メッセージを含む宣伝資料は、肉食に関する認知的不協和をより多く引き起こすことを示している。
  • 2021年の9月~10月の間の計29日間に渡って実験を実施した。この期間中、宣伝用の資料の種類は2~4日ごとに研究者らによって入れ替えが行われ、それぞれの宣伝資料が合計で7日間(金曜~日曜の長期週末を含む)は確実に利用されるようにした。さらに、観察期間中の8日間は、レストラン内に宣伝資料を全く置かなかった。このような日々は対照群として利用された。概要については、表1を参照のこと。
  • 我々がテストしたことは、上記4つの条件のそれぞれでバーガー売り上げの総量(肉バーガー+ベジタリアン・バーガー)に対するベジタリアン・バーガー売り上げの比率がどの程度まで変化したか、であった。

図6 レストランでの資料の配置

図7 各条件ごとの宣伝資料のデザイン
注:テキストは日本語に翻訳されている。実際の宣伝資料のテキストはオランダ語で書かれていた。

5.結果

  • 販売されたベジタリアン・バーガーの(全バーガー売り上げに対する)比率は、4つそれぞれの条件で著しく異なった(図8)。
  • カラム比率を比べるために実施したZ検定が示したことは、価値観活性化戦略が宣伝資料に含まれたときに、ベジタリアン・バーガーがよく売れたことが有意に示された、ということである。第一条件の場合は全バーガー売り上げのうちの9.9%がベジタリアン・バーガーであり、第三条件(2つのメッセージを組み合わせた場合)の場合は9.1%、カウンターのそばに何も宣伝資料を置かなかった対照群の場合は4.7%であった。第二条件(別のメッセージを用いた場合)の場合は6.5%となり、対照群(4.7%)との有意な差が見られなかった。

表1 調査期間中にどのように宣伝資料を入れ替えたかを表す概要

図8 条件ごとのベジタリアン・バーガーの注文数の割合

6.考察

  • 実地調査から得られたデータが示したことは、動物の福祉を重視すべきだと思っている思っているかをじっくり考えさせる、という価値観活性化戦略は、実生活の設定においても有効となり得る、ということである。
  • 価値観活性化戦略のメッセージを載せた宣伝資料を用いた場合、何も宣伝資料を置かなかった場合や、別のメッセージを用いた場合よりも、ベジタリアン・バーガーの注文数がほぼ2倍となった。
  • 実地調査後のオンライン調査では、価値観活性化戦略メッセージを含む宣伝資料は、肉食に関する認知的不協和感を増加させたことを示した。すなわち、価値観活性化戦略がベジタリアン・バーガーの注文数に与えた影響は、肉食に関する認知的不協和感が増加した結果である可能性が高いと言える。

・ライセンス

オリジナルの論文は、CC BY 4.0 DEED ライセンスで公開されていた。

https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/

 

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