健康的で持続可能な食生活はまだ遠い? タイにおける縦断的生態学研究

Thailand - how far are we from achieving a healthy and sustainable diet? A longitudinal ecological study

Alice Beckmann, Carola Strassner, Karunee Kwanbunjan

2024/09/13

https://doi.org/10.1016/j.lansea.2024.100478

論文概要

 

背景: タイをはじめとする新興工業国では、ここ数十年の間にグローバル化と欧米化、都市化の影響が広がり、食生活や食料生産のあり方も変化してきた。非感染性疾患の増加や環境破壊はこうした変化の結果として進みつつあり、今日では世界的な課題となっている。本研究では、健康と持続可能性の観点からタイにおける食習慣の変化を明らかにすることを目的とし、これらの変化が非感染性疾患の患者数、環境への影響(温室効果ガス排出・土地利用・窒素利用・リン利用)と相関しているかどうかを検証した。このように食生活と関連した変化を特定することは、地球と人類の健康を推進するうえで有益と考えられる。

方法: 縦断調査による生態学研究において、タイにおける平均的な食品消費量を、健康で持続可能な食事法であるプラネタリーヘルス食* Planetary Health Diet(PHD)の基準値と比較し、その差分を算出した。さらに、国連食糧農業機関(FAO)によるデータ、世界疾病負担研究(GBD)のデータ、および PHDの基準値を用いて二変量相関分析を行った。

結果: 肉・卵・飽和油・砂糖の消費量は1961年以降大幅に増加した。PHDの上限基準値を超えた食品群は、砂糖(+452%)、赤肉(+220%)、穀物(+143%)、飽和油(+20%)、卵(+19%)であり、逆にPHDの下限基準値を下回ったのは、野菜(-63%)と不飽和油(-61%)であった。二変量相関分析では、上記のすべての変数が有意な相関関係を示した。最も強い相関は、感染性疾患の患者数(r = 0.903, 95% CI 0.804-0.953)、窒素利用(r = 0.872, 95% CI 0.794-0.922)、土地利用(r = 0. 870, 95% CI 0.791-0.921)において見られ、これに続いてリン利用(r = 0.832, 95% CI 0.733-0.897)、温室効果ガス排出(r = 0.479, 95% CI 0.15-0.712)となっていた。

考察: タイにおいて健康的でない、あるいは持続可能でない食品群の過剰摂取は過去数十年間で増加しており、これに伴って非感染性疾患の患者数および環境に与える負荷も増大していることが明らかになった。砂糖・赤肉・穀物・飽和油・卵の摂取量を減らし、野菜と不飽和油を増やす方向にシフトすることが環境と人間の健康を支えるうえで有益と思われる。

* EAT-Lancetダイエットとも呼ばれ、果物や野菜など加工度の低い植物性食品の摂取を重視し、魚や肉、乳製品の摂取は控えめにする食事法。

 

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