論文概要
現在進められているタコ類の養殖技術の開発に関し、倫理と生態学の観点から問題があるとして科学者グループが反対している
タコ(頭足類)には知性があり、生物として高度の能力を備えていることは否定しがたい事実である。しかし現在、商業的にタコ類を養殖することを目指して多くの労力が費やされている。タコ類には問題解決や擬態、個体認識の能力があるほか、他の生物を騙したり協力したりすることもできるが、それにも関わらず、大量生産による商品化の新たなターゲットにされようとしているのである。タコ類は倫理的・生態学的な観点から飼育下での生存にとりわけ向いていないが、この論文ではその理由について、3つの大学の研究グループが見解を述べている。
20世紀の半ば以降、集約養殖は世界の食糧システムの一部とされており、現在最も急成長している食品産業のひとつである。 事実、こうした手法は経済的には成功しており、すでに500種以上の水生動物が飼育下で繁殖され、200カ国近くで行われている。
水生動物の家畜化は急速に進んでおり、多くの先進国におけるいわゆる「シーフード」の市場は、その半分が養殖によって生産されているというのが現状である。消費量で見ると、世界の天然タコ漁獲量のうち3分の2を占めるのはアジアである。一方、タコの養殖に関する研究が最も進んでいるのはスペインである。
欧州連合(EU)による支援を受けていることもあり、すでにスペインの研究者らはチチュウカイマダコ Octopus vulgaris の飼育を行っている。しかし、我々には水生動物の繁殖・飼育・殺処分に関する技術はあるものの、水生動物のウェルフェアを確保する手段は殆どないようである。例えば、著者らによれば、閉ざされた環境で飼育された魚はより攻撃的になる傾向があり、慢性的なストレスや外傷のほか、さまざまな病気にかかりやすいという。
よく知られた認知能力に加えて、タコには痛みや苦しみを感じる能力もあるようである。飼育に際しては認知機能に十分な刺激を与え、環境を探索し、操作・制御できるような環境を整える必要があると思われるが、これが一般的な工業畜産において優先されることはない。当然ながら、タコ類の多くは社会的な動物ではないため、その生態は集約養殖のモデルとは相容れないものなのである。
次に、陸上の畜産動物と比べた場合、タコの食性には違いがある。水生の養殖動物の大半は、タコを含め肉食性であり、魚類のタンパク質と油が成長のために必要である。そのため、水生動物の養殖を進めれば、飼料となる野生の魚類や無脊椎動物にさらなる圧力がかかることになる。現在、全世界で捕獲される魚類の3分の1は他の動物の飼料として使われているが、タコ類では飼料と体重の変換率は少なくとも3:1の割合であり、自分の体重の3倍に相当する量の飼料がなければ生きることはできない。研究者らは、世界の漁業はすでに枯渇しており、肉食性の生物種をさらに養殖することは、世界全体の食料安全保障の向上という目標に逆行しているものだとして警告している。
食料生産に伴う倫理や環境の問題を現在の大規模システム志向から切り離す必要があるが、動物保護の活動家はこの問題の難しさをよく理解しているだろう。ここで研究者らはより大きな社会的問題について考えることを促しており、特に陸上動物ですでに犯してしまった過ちをさらに繰り返したいのかを問うている。仮に社会がタコの養殖を禁止すると決めたとしても、世界の食料安全保障が損なわれることはないはずである。もし大きな影響があるとすれば、野生のタコはますます希少になりつつあるため、裕福な消費者がより高い価格を支払って買うことになるということくらいであろう。
現状ではタコの養殖は技術的な理由から制約されており、タコ類の未来を守るために立ち上がるのは今しかない。今はまだタコの幼体を飼育するのは非常に難しいが、経済的利益がこれを克服し、タコ類を世界の食料市場に送り出そうとするのは時間の問題である。
参照論文: Jacquet, J., Franks, B., Godfrey-Smith, P. and Sánchez-Suárez, W. (2019). The Case Against Octopus Farming. Issues in Science and Technology, 35(2), pp.37-44.
原文タイトル:https://faunalytics.org/scientists-say-no-to-octopus-farming/
論文著者:Lukas Jasiunas
公開日: 2020/01/31
論文URL:https://faunalytics.org/scientists-say-no-to-octopus-farming/

