ヒトから馬への感情の伝染 表情と音声を組み合わせた映像で伝わる恐怖と喜び

論文概要

 

感情の伝染とは二つの個体の間で感情が同調することであり、さまざまな動物種において観察されている。最近の知見によれば、感情の伝染はヒトと家畜化された哺乳類の間でも起こり得るとされている。しかし、これまで検討された動物種やヒトの感情の種類は限られているため、こうした感情の伝染を調査する手法は十分に確立されていない。

本研究では、恐怖と喜びの感情がヒトから馬に伝染するかどうかを検証するため、ヒトの恐怖・喜び・中立的な感情を映した動画に対する馬の生理反応(心拍数・赤外線サーモグラフィー)および行動反応(姿勢・左右方向への偏り・表情)を測定した。

恐怖と喜びを映した動画を再生した場合、中立的な動画を再生した場合と比較すると、馬の心拍数と耳の動きはいずれも速くなり、馬が興奮状態にあることを示していた。恐怖を描いた動画では、喜びの動画や中立的な動画に比べて眼部の温度が大きく上昇した。また、中立的な動画に比べて警戒の姿勢を長く保ち、眉を上げたり喘いだりするなど、恐怖感に関連する特有の反応を示した。

喜びの動画では、中立的な動画と比較して、対象を右眼で見る傾向(左脳が優位にあることを示す)がより強くなり、馬がよりポジティブな感情状態にあることを示唆していた。

以上の結果は、恐怖と喜びを表すヒトの表情や音声を手掛かりとして感情が馬に伝わることを示しており、このことは人間と馬の関係に影響を与える可能性がある。

 

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