論文概要
概要
本研究では、適切な環境条件のもとで飼育密度を増加させると、ブロイラーの成長と回腸内の微生物相にどのような影響があるのかを調査した。合計108羽のアーバーエーカー種の雄のブロイラー(生後28日目)を
- 通常の飼育密度(以後、NSD=Normal Stocking Density と表記、飼育密度は31Kg/㎡)
- 許可されうる最大の飼育密度(以後、MSD=Maximum Stocking Density と表記、飼育密度は39Kg/㎡)
に振り分けた。気温はどちらも常時21℃で飼育された。生後42日目に、回腸内の内容物からバクテリアの DNA を抽出し、16S rRNA の V3-V4 超可変領域を増幅させたところ、以下の結果が分かった。
- 飼育密度を増加させても、日々の体重増加平均値、日々の餌の摂取量平均値、餌のコンバージョン率には大きな影響はなかった(p>0.05)
- 回腸内の微生物群組成のα多様性、β多様性も、NSD と MSD のそれぞれのグループで大きな変化はなかった
- しかし、飼育密度の増加は回腸内の微生物相の組成を変化させており、MSD のブロイラーのラクトバシラス目(乳酸菌、腸球菌、連鎖球菌など)の相対的な存在量が、NSD のブロイラーと比較して著しく低下していた
この結果が示唆することは、たとえ適切な環境条件のもとであっても、飼育密度を39Kg/㎡のレベルまで増加させると、ブロイラーの回腸内の微生物相の組成を乱す可能性がある、ということである。動物の健康と生理に関する原因と潜在的な関連を特定するにはさらなる研究が必要とされる。
研究手法
商業孵化場から生後1日目のアーバーエーカー種の雄のブロイラーを入手し、標準的なトウモロコシと大豆の餌で飼育した。生後28日目に、ほぼ同じ体重の合計108羽のブロイラーを選別し、通常の飼育密度(NSD)のケージ6個と、許可されうる最大の飼育密度(MSD)のケージ6個に振り分けた。ケージの種類は、単層同型ケージで、0.8m☓0.8mのサイズで床はプラスティックであった。
- NSD:ケージ1個あたり8羽(12.5羽/㎡、31kg/㎡)
- MSD:ケージ1個あたり10羽(15.6羽/㎡、39kg/㎡)
14日間の実験期間中、室内の温度は常に21℃±1℃、湿度は60±10%になるように制御した。
サンプルの収集
生後42日目に、それぞれのグループから無作為に6羽を選び出し、頸部脱臼により安楽死させ、回腸の内容物を殺菌した容器に取り出した。そこからバクテリアの DNA 抽出を行い、PCR 増幅キットを用いて、V3-V4 領域をターゲットとした微生物の 16S rDNA 増幅を実施し、バイオ・インフォマティクス分析を行った。
残りの鶏たちは12時間の断食後に体重を計測し、餌の消費量を記録し、そこから日々の体重増加平均値、日々の餌の摂取量平均値、餌のコンバージョン率を計算した。
結果
成長への影響
飼育密度がブロイラーの成長に与える影響の結果を表2に示す。それぞれのグループに大きな差異はなかった(p>0.05)。

α多様性への影響
飼育密度を増加させても、ブロイラーの回腸内の微生物相のα多様性には大きな影響はなかった(表3)。

β多様性への影響
主座標分析(PCoA)の結果、NSD と MSD の間には、Bray-Curtis 距離に基づく明確な違いは見られなかった(図1A)。類似度行列分析(ANOSIM)の計測値(R)は Bray-Curtis 距離に関しては-0.009という結果であった(P=0.406, 図1B)。

図1A: NSD と MSD の各ブロイラーに対する Bray-Curtis 距離に基づいた主座標分析(PCoA)
図1B: Bray-Curtis 距離に基づいた類似度行列分析(ANOSIM)による NSD, MSD, および全サンプル間の類似性
微生物組成の比較
NSD と MSD の両サンプルで優勢(相対的存在量>1%)であった門(もん)は、ファーミキューテス門(各サンプルで 85.65% と 90.90%)、プロテオバクテリア門(8.48% と 3.17%)、 シアノバクテリア門(0.76% と 5.17%)、および バクテロイデス門(5.05% と 0.72%)であった(図2A)。これら優勢な門の相対的存在量は、NSD および MSD それぞれグループ間で大きな違いはなかった。
目(もく)のレベルで見ると、NSD と MSD の両グループのブロイラーの回腸内微生物相で優勢だったのは、クロストリジウム目(72.63% と 87.66%)、ラクトバシラス目(12.91% と 3.20%)、腸内細菌目(7.31% と 1.10%)、ランクなしシアノバクテリア門(0.76% と 5.16%)、およびバクテロイデス目(5.05% と 2.18%)であった(図2B)。MSD サンプル中のラクトバシラス目の相対的存在量は、NSD サンプルと比べて著しく低かった(P=0.02)。
属(ぞく)のレベルで見ると、NSD、MSD それぞれのグループのブロイラーの回腸内微生物相で優勢だったものは、無分類 Peptostreptococcaceae 科(42.61% と 62.32%)、Romboutsia 属(25.07% と 21.53%)、ラクトバチルス属(10.46% と 3.04%)、大腸菌・赤痢菌属(7.21% と 1.06%)、ランクなしシアノバクテリア門(0.76% と 5.16%)、およびバクテロイデス属(5.02% と 0.54%)であった(図2C)。MSD サンプル内でのラクトバチルス属と大腸菌-赤痢菌属の相対的存在量は、NSD サンプルよりも著しく低かった(P<0.05)。

図2A:主な門の相対的存在量(>1%)
図2B:主な目の相対的存在量(>2%)
図2C:主な属の相対的存在量(>1%)
図2D:群間比較解析(LEfSe)によるグループ間の細菌分類群の差異。存在量の変化を次の色で示す:黄色=変化なし、赤=MSDで減少、青=MSDで増加。LEfSeスコアが2以上であれば有意と見なした
検討
今回の研究の結果、飼育密度を増加させると、回腸内のラクトバシラス目および大腸菌・赤痢菌属の相対的存在量を減少させることが示された。大部分のラクトバシラス目は人間や動物の腸に健康的な利益を与えるため、健康に良い細菌として長く利用されてきた歴史がある。39kg/㎡の飼育密度でのラクトバシラス目の減少は、飼育密度の増加はブロイラーの健康にマイナスの影響をもたらす可能性があることを示している。しかしその一方で、39kg/㎡の飼育密度では、病原菌である大腸菌・赤痢菌属の相対的存在量も減少した。従って、39kg/㎡の飼育密度での回腸内微生物相組成への変化に与える結果について、今後さらなる研究が必要とされる。
ライセンス
訳注:本研究は Creative Commons 4.0 By-NC-SA ライセンスのもとで公開されている。
https://creativecommons.org/licenses/by-nc-sa/4.0/
原文タイトル:Effects of Increasing Stocking Density on the Performance and Ileal Microbiota of Broilers
論文著者:Yaowen Li, Shuang Xing, Xuejie Wang, Xiumei Li, Minhong Zhang and Jinghai Feng
公開日: 2022/07/25

