論文概要
背景: 社会の高齢化は加速しつつあり、認知症は公衆衛生における大きな課題となっている。健康な認知機能とベジタリアン食の関連性は欧米諸国では実証されているものの、中国の高齢者を対象とした縦断研究によるエビデンスは不足している。本研究では中国健康長寿縦断調査 China Longitudinal Healthy Longevity Survey (CLHLS) で得られたデータを使用し、ベジタリアン食と認知症リスクの関連について前向き研究による検証を行った。
方法: CLHLS 2008-2018の参加者のうち、ベースライン時点における年齢が65歳以上で認知症のない高齢者1,948名を対象とした。10種類の食品について、食品摂取頻度質問票を用いて摂取頻度を評価し、植物性食品(穀物・野菜・果物・ナッツ類・キノコ類)の摂取頻度に基づいてベジタリアン食の遵守度を算出した。追跡調査は2010年・2011年・2014年・2018年に実施され、その時点における中国語版ミニメンタルステート検査の成績、日常生活動作能力、医学的診断に関する自己報告に基づいて認知症の発症を確認した。ハザード比(HR)および95%信頼区間(CI)の推定にはコックス比例ハザードモデルを使用し、社会人口統計学的特性・生活習慣・健康状態などの交絡因子を調整した。サブグループ解析および感度分析では、これらの要因が及ぼす影響と結果の頑健性を評価した。
結果: 10年間の追跡期間において新たに認知症が確認されたのは計53例であった(2.7%)。交絡因子に多変量調整を施した分析では、ベジタリアン食の遵守度が1ポイント上昇するごとに、認知症のリスクが17%低下していた(HR = 0.83, 95% CI: 0.70-0.98, p = 0.031))。ベジタリアン食の遵守度によって参加者を3群に分類すると、中央の3分位群では、最も低い3分位群に比べて認知症のリスクが有意に低く(HR = 0.49, 95% CI: 0.26-0.93, p = 0.028)、最も高い3分位群でも同様のリスク低下が見られた(HR = 0.50, 95% CI: 0.23-0.99, p = 0.048)。
対象を限定したサブグループ解析では、ベジタリアン食による予防効果が強く見られる参加者には特徴があることが明らかになった。具体的には、80歳未満であること(HR = 0.62, 95% CI: 0.48-0.80)、飲酒の習慣がないこと(HR = 0.81, 95% CI: 0.67-0.97)、 正規の教育を受けていないこと(HR = 0.79, 95% CI: 0.63-0.98)、肉体労働者(HR = 0.66, 95% CI: 0.49-0.89)、既婚あるいは同棲中のパートナーがいること(HR = 0.70, 95% CI: 0.54-0.90) であった。感度分析では、追跡期間中の早期発症および年齢が極端に離れた参加者を除外したうえで上記の結果を検証し、その頑健性を確認した。
結論: 中国の高齢者においてベジタリアン食は認知症リスクの低下と有意に関連しており、こうした保護作用は参加者の人口統計学的特性およびライフスタイルによって違いがある。本研究の結果は、認知症に対する一次予防の戦略にベジタリアン食を組み込むことを支持するもので、特にリスクの高い層における応用の重要性を強く示している。
原文タイトル:Fiber-based vegetarian score and the risk of incident dementia among elderly Chinese adults: a prospective cohort study
論文著者:Wanlin Zhou, Dongdong Yang, Keyun Guo, Ling Quan, Zhuoling Li, Xingyu Wang, Huilian Cao, Wen Xiao
公開日: 2026/05/25

