企業の社会的責任がアニマルウェルフェア基準に与える影響:ケージフリー卵産業からの実証

論文概要

 

要旨

企業の社会的責任(CSR)活動は、動物福祉問題への対応策として広く普及しつつある。過去10年間で、世界中の数百社が採卵鶏の福祉向上を目的としてケージフリー卵の調達へのコミットメントを発表してきた。多くの場合、こうしたコミットメントは、畜産動物の擁護活動に多額の支出を投じている団体による世論喚起キャンペーンを受けてなされたものである。これらのコミットメントが、対象とする問題の改善に実際どの程度寄与しているかは十分に解明されておらず、その効果をより明確に理解することは、動物擁護活動への数百万ドル規模の資金配分に影響を及ぼす可能性がある。本研究では、13年間にわたる44カ国のパネルデータを用いて、法規制や鳥インフルエンザによる鶏の死亡数を統制しつつ、企業コミットメントがケージフリー飼育の割合に与える効果を推定した。国間の観測不能な異質性や、各国における時間的な相関を考慮するため、相関ランダム効果モデル(correlated random effects model)を用いて分析を行った。また、企業コミットメントと飼育環境との間にあるフィードバックループによる内生性(endogeneity)の可能性については、圧力キャンペーンをコミットメントの操作変数(instrument)とする制御関数法(control function test)によって検証した。その結果、ある国で企業のコミットメントが1件追加されるごとに、ケージフリー飼育の割合が平均して0.035パーセントポイント上昇することが推定された。同様に、ケージフリーに関する法規制が1年間継続することによる平均効果は0.04パーセントポイントの上昇であったが、この結果は統計的に有意ではなかった。本稿では、これらの結果が示唆する含意を考察するとともに、研究の限界と今後の課題について論じる。

エグゼクティブ・サマリー

企業の社会的責任(CSR)活動は、採卵鶏の福祉向上を目的としたケージフリー卵の調達へのコミットメントなど、アニマルウェルフェア問題への対応策として普及している。本稿では、企業によるケージフリー卵の調達コミットメントが、ケージフリー飼育下にある鶏の割合に実際に変化をもたらすのかを検証する。観察データと統計手法を用いてバイアスを低減しつつこの問いに取り組んだ。

  • 44カ国・13年間にわたる新たなデータセットを作成し、鶏の飼育環境、企業のケージフリー・コミットメント、ケージフリー法制化、高病原性鳥インフルエンザの4変数を追跡した(第3.1節)。
  • コミットメントが飼育環境に与える影響を、推定にバイアスを及ぼす可能性のある他要因から切り離して識別するため、相関ランダム効果モデル(correlated random effects model)を使用した(第3.2.1節)。
  • 因果的フィードバック、欠損データ、ドイツの輸入量とコミットメント数との関連性、変数変換といった潜在的バイアスについて検証した(第3.2.2節)。

分析の結果、特定の国においてケージフリー・コミットメントが1件追加されるごとに、ケージフリー飼育の割合が平均して0.035パーセントポイント(95%信頼区間:0.01〜0.06)上昇することが示された。

  • 業界全体の鶏の頭数が膨大であることから、年間に数件の新規コミットメントがあっただけでも大きな影響が生じうる。たとえば、2017年にカナダの食品企業が16件のコミットメントを発表したことにより、カナダのケージフリー飼育率は0.56ポイント上昇し、約14万7千羽の鶏に影響が及んだ可能性がある(第5節)。
  • 潜在的バイアスに対する各種検証から、我々の推定手法は観察研究にしばしば影響を及ぼす複数の要因に対して頑健であると示唆された(第4節)。もっとも、一定のバイアスが残っている可能性は否定できず、結果に対しては中程度の信頼を置く。

推奨事項:

  • 採卵鶏のケージフリー飼育率を高めるために、支援団体は企業に対するコミットメント獲得活動を継続すべきである。
  • 本研究で示されたケージフリー・コミットメントの因果効果に関する証拠の強さを踏まえ、他のアニマルウェルフェア改善策についても同様の企業コミットメントが検討されるべきである。
  • 企業コミットメントと法的規制の相互作用が、それぞれの効果を増幅させるのか、それとも減衰させるのかを明らかにする将来的な研究に対して、支援団体は資金提供を行うべきである。
  • 支援団体および資金提供者は、福祉コミットメントに関するデータを継続的に追跡し、将来のアニマルウェルフェア介入に向けて、成果指標および共変量のデータ収集体制の改善を支援すべきである。

 

原文タイトル:The Impact of Corporate Social Responsibility on Animal Welfare Standards: Evidence From the Cage-free Egg Industry

論文著者:Samara Mendez, Jacob Peacock

公開日: 2023/12/13 

論文URL:https://rethinkpriorities.org/wp-content/uploads/2024/10/CSR.pdf

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