健康的で持続可能な食習慣のための労働需要 世界・地域・国家レベルのモデリング研究

論文概要

 

背景: 現在の食習慣と食料システムには大きな変革が求められており、気候変動を抑制し、持続可能な開発目標を目指しながら、増え続ける人口に健康的な食料を提供しなければならない。こうした移行に伴って生産する食料の種類や生産地が変わるとすれば、現代の世界で農業に従事する労働者の4分の1に影響が及ぶことになる。本研究では、健康的で持続可能な食習慣に移行した場合の農業の一次生産に関わる労働需要を世界・地域・国家のレベルで推定した。

方法: 農場レベルの推定値をもとに、農業労働に関する需要量について食品別・地域別のリストを作成し、食習慣と食料システムを折り込んだシナリオと組み合わせた。シナリオでは、健康的で持続可能な食習慣としてフレキシタリアン・ペスカタリアン・ベジタリアン・ヴィーガンの食事パターンへの移行を取り入れた。世界の食料システムにおけるインプット/アウトプットを生物物理モデルに取り込み、労働需要に関する上記のリストと組み合わせることで、食料消費の変化が食料生産とこれに関連する労働需要に及ぼす影響を追跡した。この分析では179カ国における20種類の食品グループを対象とした。

結果: 健康的で持続可能な食料システムへの移行は、農業労働力の量と分布に大きな変化をもたらす可能性があることが明らかになった。プラントベースの食事パターンを採用した場合、現状維持のシナリオで推定した2030年の食料需要と比べると、世界の労働需要はフレキシタリアンとペスカタリアンの食事パターンでは5%減少し、ベジタリアン・ヴィーガン食では22~28%減少した。減少幅が最も大きいのは畜産が大きな割合を占めている国々である。一方、4分の1から半数の国々では果物・野菜の生産に関わる需要の増加が見込まれ、これに対する労働需要が増加した。こうした変化は、世界全体で年間の国内総生産(GDP)の0.2~0.6%に相当する労働コストの削減につながっていた。

解釈: 農業労働における移行を適切に進めるためには、一貫性のある戦略と政策的な支援が必要である。

 

原文タイトル:Labour requirements for healthy and sustainable diets at global, regional, and national levels: a modelling study

論文著者:Yiorgos Vittis, Michael Obersteiner, H Charles J Godfray, Marco Springmann

公開日: 2025/10/01 

論文URL:https://doi.org/10.1016/j.lanplh.2025.101342

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