健康的で持続可能な食習慣の環境負荷、栄養充足度と金銭的コスト モデリング研究による現在のメキシコの食習慣との比較

論文概要

 

背景: 現在の食料システムは環境の悪化をもたらし、過剰な資源利用の原因となっている。健康的で持続可能な食事パターン(HSD)に移行すればこうした影響を緩和できる可能性があるが、これに要するコストや栄養充足度は現在の食習慣とは異なる可能性があり、実際の食事パターンによる違いも考えられる。この問題について、メキシコなどの中所得国に関する知見はいまだ限られている。

目的: メキシコの成人を対象として7種類の HSD を現在の食習慣と比較し、環境負荷・金銭的コスト・栄養充足度を推定する。

方法: このモデリング研究ではDIETCOSTツールを用いて7種類のHSDにおける食品バスケットをシミュレートした(メキシコ政府によるHSDガイドライン準拠食・EAT-Lancet食およびそのメキシコ版・ミルパ食・ベジタリアン食・ヴィーガン食・ペスカタリアン食)。現在の食習慣に関しては ENSANUT 2012および2016データに基づいて2種類のカロリーレベルでモデル化した(現在の食生活における実測平均値 2263kcal・HSDの目標カロリー値に合わせた2051kcal)。栄養充足度は推定平均必要量* を用いて評価した。食品価格に関しては、INEGIから得たデータを2016年のメキシコ・ペソに標準化した。環境指標としては、メキシコ国内および国際的なデータソースからカーボンフットプリント、土地利用、ウォーターフットプリント、生物多様性損失のデータを抽出して用いた。全ての比較に線形回帰モデルを用いて検証した。

結果: HSDの食品バスケットは現在の食習慣に比べて12~24%安価で、等カロリー食に比べて6~21%安価であった。コストが最も低い食品バスケットはベジタリアン食で(-27%)、次いでEAT-Lancet食とミルパ食(約-20%)となっていた。HSD に関連する土地利用は、現在の食習慣に比べて23.6~53.2% 少なく、このうち最も影響を低減できるのはヴィーガン食であった。ウォーターフットプリントはミルパ食で最も低く(-18.2%)、ヴィーガン食とガイドライン準拠食では現在の食習慣より高かった(それぞれ+9%と+20%)。プラントベース食の炭素フットプリントは現在の食習慣より63-81% 低く、生物多様性損失は約98% 減少していた。栄養充足度はほとんどのパターンで満たされていたが、ヴィーガン食・ベジタリアン食ではビタミンB12が不足し、ビタミンDは全てのシナリオで不足していた。

結論: 健康で持続可能な食事パターンは、現在のメキシコの食習慣と比較するといずれもコストと環境負荷は低かった。一部の栄養素には不足があるものの、こうした食事パターンはメキシコの公衆衛生において持続可能な栄養戦略のための現実的な基盤となるものである。

* 健康な個人や集団の約50%がその栄養素の必要量を満たすことができると推定される1日あたりの栄養素摂取量を指す基準値

 

原文タイトル:Environmental impact, nutritional adequacy, and monetary cost of current vs. healthy and sustainable diets in Mexico: modelling study

論文著者:Andrea Arango-Angarita, Mishel Unar-Munguía, Juan A Rivera, Sally Mackay, Stefanie Vandevijvere, Boyd Swinburn, Carolina Batis

公開日: 2025/09/18 

論文URL:https://doi.org/10.1016/j.ajcnut.2025.09.024

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