健康的な食生活の変化が欧州全域の土壌温室効果ガス排出量に与える影響

論文概要

 

健康的なプラントベース食への転換は、食料システムからの温室効果ガス排出を低減する戦略として広く認識されており、特に畜産動物に由来するメタンガスの排出量を削減できる。土壌由来の温室効果ガス排出は気候変動の主な要因の一つであるが、食習慣の転換がこれにどのような影響を及ぼすかは不明である。。

本研究では、EAT-Lancetガイドラインに沿って食習慣が変化した場合に欧州連合と英国における土壌有機炭素および亜酸化窒素の排出量、土壌GHG収支にどのような影響があるか、MAGNET経済モデルとDayCent生物地球化学モデルを用いて検証した。

EAT-Lancet食を導入した場合、畜産物の生産量が減少し、これとともに畜産で発生する堆肥由来の有機炭素および有機窒素、農業で恒久的に利用される草地の面積も減少した。これにより、土壌から失われる有機炭素はEU平均で2100年までに14 Mg CO2e ha-1 となり、集約的畜産を行っている地域では最大で50 Mg CO2e ha-1となる可能性がある。ただし、生産で使われなくなった土地への植林により、食習慣の変化で失われる土壌中の炭素量の約半分を2100年までに相殺できる。植林で得られる地上のバイオマスを考慮した場合、植林を行った地域ではさらに65 Mg C ha⁻¹の炭素が供給されるため、欧州全体では二酸化炭素を正味で除去できる可能性がある。

亜酸化窒素(N2O)の排出量は2100年までより緩やかで不均一に変化し、土地利用の変化や投入される窒素化合物の増加に伴い、欧州全体では10 Mg CO2e ha⁻¹の増加から13 Mg CO2e ha⁻¹の減少の範囲で変動する可能性がある。土壌中の有機炭素は、土地利用の変化や投入される有機物の減少、土壌の種類などによって変動し、より小規模ではあるが気候帯によっても変化する。

本研究の結果は、食習慣の変化が気候変動に対処するうえで重要であることを強く示しているが、実務や政策立案においては土壌に関連するトレードオフの可能性を慎重に検討する必要がある。土壌保全のための手段としては不耕起栽培や植林などが適切であり、持続可能な食習慣がもたらすコベネフィットを実現するためには、これらを支援し実施することが求められる。

 

原文タイトル:Impact of Healthy Diet Shifts on Soil Greenhouse Gas Emissions Across Europe

論文著者:Vasilis Michailidis, Emanuele Lugato, Panos Panagos, Florian Freund, Diego Abalos

公開日: 2025/11/24 

論文URL:https://doi.org/10.1111/gcb.70624

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