論文概要
概要
我々の行動の意図、動機、ふるまいといったものは、我々の認識によって形成されるものであり、ひいてはこの現実世界もそのようにして形成されている。この人類中心の時代において、我々の認識は、人間以外の動物たちの命とウェルフェアに大きな影響を与えている。国際規模でのアニマル・ウェルフェア政策の成功につながる重要な原理のひとつが、各地の地元民たち、および彼らの生活状況を理解することである。さらに、国ごとの文化というものが、動物とアニマル・ウェルフェアに対する態度を決める重要な因子であることが明らかになってきた。本研究では、一般の人々4,291人を対象に、彼らの動物、およびアニマル・ウェルフェアに関して調査を行った。対象者は、地理的・文化的に異なる様々な右の14の国々から集められた:オーストラリア、バングラディシュ、ブラジル、チリ、中国、インド、マレーシア、ナイジェリア、パキスタン、フィリピン、スーダン、タイ、英国、北米。これらの対象国の大部分にとって、本研究はこの種の研究が行われる初めての事例となった。これら全ての国々の被験者の大部分が、畜産動物もペット動物もどちらのウェルフェアも自分にとって大切なことであり、このウェルフェアを保護するための法律も同様に重要である、と述べた。人間はいつも畜産動物よりもペット動物のほうを大切に世話するものだ、という考えに対しては疑問の声が上がり、同様に、アニマル・ウェルフェアに気を配ることは、高度に発展した国だけが持つ特徴である、という考えも疑問視された。いくつかの国では、動物の有用性、および動物と触れ合う機会が多い(距離が近い)ことのほうが、ペットとして愛玩することよりも重要視されており、特にその傾向が強いのは、生活のための自給農業を行っている国である、という点を本研究では提唱している。国ごとに大きな差異があり、この差異は各国ごとの状況とともに説明する。こうすることで、各地域に見合った生活方針と合わせて理解することが容易になる。
キーワード:動物、ウェルフェア、多国間、異文化間、認識、一般大衆、調査、態度
調査手法
本研究の質問票の内容は、24項目の質問、および統計的質問(性別、年齢、学歴、宗教)であった。
被験者はまず最初に「アニマル・ウェルフェア」の意味を理解しているか、に質問され、回答後に以下の定義が提示された。
アニマル・ウェルフェアとは、動物が生活環境にどれだけうまく適応しているかを指します。動物のウェルフェアが良いとは、その動物のニーズが満たされ、健康で快適で、栄養状態が良く、安全で、大切な行動を行うことができ、痛み、恐怖、苦痛などの不快な状態に苦しんでいない状態を指します」(国際獣疫事務局から転用)
24項目の質問は、7段階のリッカート尺度で回答され、いくつかのアニマル・ウェルフェア関連の質問は同意できる度合いを回答してもらい(1=まったく同意できない、4=どちらでもない、7=完全に同意する)、いくつかの質問では様々な動物種に対するウェルフェアの重要性について回答してもらった(1=まったく重要ではない、4=どちらでもない、7=非常に重要である)。
質問は最初、英語でオンライン上に作成され、各国用にコピーを作成してからバイリンガルの翻訳者により、各国の一般大衆向けに適した言葉に翻訳された。対象国と言語は次のとおり:オーストラリア(英語)、バングラディシュ(ベンガル語)、ブラジル(ポルトガル語)、チリ(スペイン語)、中国(繁字体中国語、簡体字北京語)、インド(ヒンズー語、英語)、マレーシア(マレー語、中国語、英語)、ナイジェリア(英語)、パキスタン(ウルドゥー語)、フィリピン(英語)、スーダン(アラビア語)、タイ(タイ語)。
各国でのデータ収集は地元の各国協力者(本研究の共同著者でもある)によって実施された。データ収集は基本的に対面式で行われ、各国協力者が、まず被験者に対して質問内容を口頭で読み上げ、その回答を匿名でオンラインの調査ツールに入力した。
データ分析結果
同意率の計算方法は、7段階リッカート尺度で5,6,7と回答した人の数を同意した率として計算し、逆に1,2,3と回答した人、および4(どちらでもない)と回答したを不同意として計算した。
調査結果
参加者
14カ国から集められた合計4,291人の被験者の統計的分布を表1に示す。

主な認識結果
各国を総計すると、73.7%の被験者が「アニマル・ウェルフェア」の意味を理解している、20.4%はいくらか理解している、5.7%が理解していない、と回答した(図1)。

大部分の被験者は、自国の畜産動物のウェルフェアは大切である、と回答した(表2)。自国の畜産動物のウェルフェアの大切さについて、最も相対的な同意率が高かったのはチリ、パキスタン、オーストラリア、ブラジルであった。

87.6%の被験者は、自国のペット動物のウェルフェアは大切である、と回答した。上位の国は、チリ、オーストラリア、ブラジル、インド、パキスタン、タイ、英国であった。
畜産動物とペット動物のウェルフェアの大切さの率に最も差が生じたのがインド(約7%)であった。
いくつかの国では、ウェルフェアの大切さの同意強度において、畜産動物のほうがペット動物よりもウェルフェアの大切さ強度が大きいと認識されており、最も顕著だったのがバングラディシュとスーダンであった。パキスタンとナイジェリアもわずかであるが、畜産動物のほうが大切さの強度が大きいと見なされた。
大部分の被験者は、動物にやさしい製品により高い値段を支払うと述べた(82.2%)。全体的に、畜産動物のウェルフェアの大切さの認識と動物にやさしい製品により高い値段を支払うことには相関関係があった。
大部分の被験者は、自国の動物のウェルフェアを保護するための法律を制定することが重要であることに同意した(総計値で88.9%)。
動物種ごとのアニマル・ウェルフェアの「大切さ」
全体的に、動物種別でもそれぞれの動物のウェルフェアはある程度まで大切であると見なされている、というのが本研究の評価結果であった。例外としては、パキスタンにおける犬と豚、あるいはバングラディシュ、パキスタン、スーダンにおけるスッポン、カンガルー、コアラであった。これらの同意強度は「どちらでもない(4)」あるいはそれ以下(2および3)であった(表3)。

全体的には、最もウェルフェアが重要な動物種は人間である、という評価結果であったが、オーストラリア、チリ、ブラジルでは犬のウェルフェアのほうが人間のそれよりも大切である、と見なされていた。とりわけチリでは、牛のウェルフェアも人間より大切であると位置づけられており、オーストラリアとチリでは、コアラのウェルフェアが人間よりも大切であると見なされていた。
総計では、動物種別のウェルフェア重要度を高い順に並べると、人間、牛、犬、鶏、魚、カンガルー、コアラ、スッポン、そして最下位が豚であった(図2)。

しかしながら、動物種別のウェルフェア重要度については、国ごとのばらつきが大きかったため、国ごとの順位結果を図3に示した。

人間のウェルフェア重要度と、犬のウェルフェア重要度の差分を見ると、これが国連の人間開発指数(Human Development Index, HDI)と相関関係があり、開発指数の高い国ほど、差分が小さくなることを示した(図4,および表4)。パキスタンはこの分析結果から除外されたが、その理由は下記に記す。


人間以外の動物種の感覚:鶏と魚
国ごとにばらつきがあるものの、被験者は総じて鶏と魚は痛みを感じることに同意した。魚に感情はあるかという問いに対しては、総じて同意してはいるものの、同意率は低くなった。例外はタイであり、魚の感情についての同意率は高く、同意強度も大きかった。鶏には探索行動や運動のための空間が必要である、という質問に対しては、大部分の被験者はある程度の同意を示した(表5)。

国ごとの主要な調査結果
オーストラリア
畜産動物のウェルフェアの重要性について、非常に高い同意率(91.2%)を示した 。犬やコアラの福祉を、人間の福祉よりも重要であると回答した点が特徴的。
バングラデシュ
アニマル・ウェルフェアという言葉の意味の認知度が低いにも関わらず、畜産動物のウェルフェアを重要視しており(82.5%)、これは大部分の村では生活のためにヤギや羊の自給農業を行っており、畜産動物との距離が近いためと思われる。大部分がイスラム教徒であり、豚と犬を不浄であるとする傾向がある。
ブラジル
畜産動物とペット動物の両方において、ウェルフェアを非常に重要視している国の一つ 。犬のウェルフェアが人間よりも大切、と見なしているが、これは42%のブラジル世帯で犬を飼っているという世論調査の結果が影響している可能性がある。動物に配慮した製品への支払い意思も比較的高い(89.7%)。
チリ
本研究において、畜産動物、およびペット動物両方へのウェルフェアの同意率・同意強度が最も高い国という結果となった。畜産動物のウェルフェアを保護する法律の制定にも強く同意している。動物に配慮した製品への支払い意思も97.2%と最高値を示してる 。チリでは、犬とコアラとともに、牛のウェルフェアも人間よりも重要である、と見なされている。チリでは2017年に「ペット所有責任法」が可決されており、その中でペットは感覚を有する生物であり、一定基準を満たす世話と管理を必要とする、と定めている。
中国
大部分の中国の被験者は、畜産動物、およびペット動物両方のウェルフェアが重要であることに同意を示した(それぞれ81.5%、83.2%)ものの、畜産動物のウェルフェアへの同意強度は下から2番目の低さであり、ペット動物のウェルフェアの同意強度についても下から4番目であった。アニマル・ウェルフェアという言葉の理解度が30.1%と参加国中で最も低く、この言葉の意味が誤解されたり混同されている可能性がある。
インド
ペット動物のウェルフェアの認識率が91.8%と高い。また魚が痛みを感じる・魚が感情を持っているという認識率が高いのが特徴。ヒンズー教・仏教・ジャイナ教の発祥地であるインドでは「アヒムサ(非暴力)」の考えが動物に対する認識に重要な役割を果たしている可能性があり、特にヒンズー教では魚を崇拝の対象としてことが影響しているかもしれない。
マレーシア
マレーシアはイスラム教が多数派を占めるにも関わらず、犬のウェルフェアを比較的高く評価している。同様に、豚のウェルフェアも他のイスラム教国より高い。これはマレーシアの SNS 普及率の高さや HDI が高いことが影響しているかもしれない。
ナイジェリア
畜産動物のウェルフェアの重要性の認識率が本研究での最下位(77.8%)となった。これは、同国の貧困率の高さや経済状況の悪化と関連している可能性がある。人間に次いで、同国でも最も多く飼育されている鶏と牛のウェルフェアが大切、と考えられており、番犬として犬を飼う習慣があるため、犬のウェルフェア認識率も同国の中では高い。
パキスタン
畜産動物のウェルフェアの重要性について、チリに次いで2番目に高い同意率(95.2%)を示した 。これは畜産動物が社会の生計に直結している(相互依存関係)ことや、畜産動物との距離の近さの影響が考えられる。犬と豚のウェルフェアへの同意強度は参加国中で最も低い結果となったが、これはイスラム教の教義や伝統で、豚を不浄の動物としていること、および犬と触れ合わないよう警告されていることが影響していると思われる。
フィリピン
自国の動物のウェルフェアを保護する法律の制定への同意率が比較的高い(89%)。フィリピン人は、人間以外の動物すべてのウェルフェアの重要性に対して、高い同意強度を示し、とりわけ犬への同意強度が人間に次いで高かった。
スーダン
畜産動物のウェルフェアをペット動物よりも重視しており、また人間以外の動物へのウェルフェア重要度の同意強度はいずれも非常に低い結果となった。これは同国にはアニマル・ウェルフェア運動が存在しないことに加え、内戦や政情不安による食糧の確保、個人の安全、人権保障といった人間側の課題が優先されていることが原因と考えられる。
タイ
ペット動物へのウェルフェア同意率が高く(91.3%)、動物のウェルフェアを保護する法律の制定への同意率も高い(90.5%)。タイの被験者は、鶏と魚が痛みを感じる・感情を持っていることへの同意率・同意強度がいずれもほぼ最高値を示した。この原因としては、タイの被験者の93.3%が仏教徒であることが影響している可能性がある。
英国
ペット動物のウェルフェアへの同意率が高く(90.9%)、特に犬のウェルフェアに対する関心が高い。一方で、鶏と魚が感情を持っていることへの同意率・同意強度が、最低水準となった。英国では魚は3番目に人気のあるペットであるにも関わらず、魚の感情の有無に対しては英国人は認識度が低い、という結果が他の調査でも出ている。
北米
「アニマルウェルフェア」という言葉の理解度は95.2%となり、全対象国中で最も高い結果となった。しかし、畜産動物およびペット動物のウェルフェア重要度への同意率・同意強度ともに、比較的低い順位であった 。また、鶏と魚が感情を持っていることへの同意率・同意強度も、英国同様に最低水準となった。
原文タイトル:International perceptions of animals and the importance of their welfare
論文著者:Michelle Sinclair, Natasha Y. P. Lee, Maria Jose´ Hötzel, Maria Catalina T. de Luna, Arvind Sharma, Musadiq Idris, Tessa Derkley, Congcong Li, Mohammad Ariful Islam, Oluwaseun S. Iyasere, Grisel Navarro, Abdelkareem A. Ahmed, Chanadda Khruapradab, Michael Curry, Georgette Leah Burns and Jeremy N. Marchant
公開日: 2022/08/18
論文URL:https://www.frontiersin.org/journals/animal-science/articles/10.3389/fanim.2022.960379/full

