宇宙研究の生命科学分野における動物実験の代替と削減

論文概要

 

今後数十年で月面居住や火星有人探査、宇宙旅行は現実のものとなり、宇宙空間に人間が滞在する機会、特に長期間にわたる滞在は急増すると考えられる。しかし、宇宙飛行が60年以上にわたって行われてきたにもかかわらず、宇宙環境がヒトの生理に及ぼす影響のメカニズムは未だ十分に解明されていない。ハエからサルに至るまで、動物はさまざまに異なった複雑性を備えており、宇宙における重力変化や宇宙放射線など、重大な環境要因が(病態)生理に及ぼす影響を研究するうえで当初から大きな役割を担ってきた。

しかし、倫理的理由やヒトとの関連性に限界があることから、生物医学研究における動物の使用に対しては批判が高まっている。動物実験の3R原則では、代替・削減・苦痛軽減が求められており、過去数十年間はこれに基づいて動物実験を完全に回避する代替手法、いわゆる(動物を用いない)新たなアプローチ方法論 new approach methodologies の開発に重点が置かれてきた。こうした新しい手法は、プライマリー細胞や幹細胞の単層培養から、臓器の複雑な細胞構造を再現する3Dプリントオルガノイドやマイクロ流体チップまで、多岐にわたっている。

宇宙研究の生命科学分野で用いられている新しい手法は他にもあり、動物実験の削減に寄与している。これには例えば、微小重力や放射線シミュレーターなど、地球上で宇宙環境を模倣する方法が挙げられる。また、システム生物学・ライブセル解析・ハイコンテント分析・リアルタイム分析・ハイスループット分析・人工知能・デジタルツインで得られた試験結果の処理や分析、応用を支援するツールも新たなアプローチに含まれる。宇宙研究の生命科学分野において動物実験を代替または削減する手法にはこうしたものがあり、本稿ではその概要について詳しく解説する。

 

原文タイトル:Taking the 3Rs to a higher level: replacement and reduction of animal testing in life sciences in space research

論文著者:Mathieu Vinken, Daniela Grimm, Sarah Baatout, Bjorn Baselet, Afshin Beheshti, Markus Braun, Anna Catharina Carstens, James A Casaletto, Ben Cools, Sylvain V Costes, Phoebe De Meulemeester, Bartu Doruk, Sara Eyal, Miguel J S Ferreira , Silvana Miranda, Christiane Hahn, Sinem Helvacıoğlu Akyüz, Stefan Herbert, Dmitriy Krepkiy, Yannick Lichterfeld, Christian Liemersdorf, Marcus Krüger, Shannon Marchal, Jette Ritz, Theresa Schmakeit, Hilde Stenuit, Kevin Tabury, Torsten Trittel, Markus Wehland, Yu Shrike Zhang, Karson S Putt, Zhong-Yin Zhang, Danilo A Tagle

公開日: 2025/04/01 

論文URL:https://doi.org/10.1016/j.biotechadv.2025.108574

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