日本版「代替食への馴染めなさ感評価表」の開発と有効性確認(J-FNS-A):代替タンパク質食を食べようという意欲との関連

Development and validation of Japanese version of alternative food neophobia scale (J-FNS-A): association with willingness to eat alternative protein foods

Mio Kamei, Misaki Nishibe, Fuyumi Horie and Yuko Kusakabe

2024/05/28

https://www.frontiersin.org/journals/nutrition/articles/10.3389/fnut.2024.1356210/full

論文概要

 

序章:

  • 馴染みのない食べ物への嫌悪感(Food neophobia=FN)は、馴染のない食べ物を積極的に食べることを抑止する心理学的性質のひとつである。
  • この性質は、従来の肉食に代わる主要なタンパク質代替品となる昆虫食と培養肉を受け付けるかどうかに関わりがあり、近い将来の食産業を理解する上での重要な人間的性質と言える。
  • Pliner と Hobden は「馴染みのない食べ物への馴染めなさ感評価表」(Food neophobia scale=FNS)を開発したが、これは回答者の文化的背景の違いが原因で、日本人を対象とするには信頼性が低い。そのため、本研究では最新の改良版「馴染みのない食べ物への馴染めなさ感評価表」(Food neophobia scale on the alternatives=FNS-A)に基づき、この評価表の日本版の開発とその有効性確認を目標とした。
  • 有効性の確認された日本版の改良版「馴染みのない食べ物への馴染めなさ感評価表」(J-FNS-A)を開発することで、日本人の馴染みのない食べ物への嫌悪感の傾向を定量的に見積もることができ、世界の他地域との馴染みのない食べ物への嫌悪感の比較も可能となるであろう。
  • よって本稿の目的は、改良版「馴染みのない食べ物への馴染めなさ感評価表」の日本版を開発し、日本人被験者に対するその有効性を評価することである。

方法:

  • 4回に渡るオンライン調査(予備調査1:n=202、予備調査2:n=207、メイン調査:n=1,079、追跡調査:n=500)により、代替食への馴染めなさ感評価を実施した。
  • メイン調査では、日本人回答者(年齢20〜69歳)が、改良版「馴染みのない食べ物への馴染めなさ感評価表」の日本版(J-FNS-A)に回答した。
  • 具体的には、従来のタンパク質食材(挽き肉、豆腐)を含むハンバーガーと、代替タンパク質食材(大豆肉、培養肉、コオロギパウダー、藻類パウダー、ミルワームパウダー)を含むハンバーガーそれぞれに対する食べる意思(willingness to eat=WTE)と、馴染やすさについて回答してもらった。

結果:

  • 2因子モデルを想定した確認的因子分析の結果は、満足のいくモデル適合指数を示し、既存の FNS-A と一致する結果を得られた。
  • J-FNS-A の平均値は 4.15[標準偏差(SD)=0.93]であった。
  • J-FNS-A 値は年齢や性別とは関連性がなかったが、代替タンパク質食を含むハンバーガーに対する食べる意思(WTE)には、通常ではない関連性が見つかった(rs=-0.42 to -0.33)。
  • このような負の関連性は、食べ物に対する馴染み度が減少するにつれて増加した(r=0.94)。
  • 1ヶ月後の再検査信頼性の値も満足のいくものであった(r=0.79)。

キーワード:

馴染みのない食べ物への嫌悪感、代替タンパク質食材、食虫習慣、純粋培養肉、研究所培養肉

調査素材と調査方法

  • 今回行った調査は以下のように数回に分けて行われた。
    1. 日本語への翻訳精度を確認するための2回の予備調査(被験者数それぞれ n=202, n=207)
    2. メイン調査1回(被験者数 n=1,079。実際にはもっと多かったが、421名の回答は不適切な回答と判断され除外された結果、この数になった。男性505名、女性574名、平均年齢45.79歳)
    3. 追跡調査1回(被験者数 n=500)
  • メイン調査は以下のように三部構成となっており、各セクションには日本で一般的なタンパク質食材、および世界的によく知られているタンパク質食材、今後一般的になりそうな代替タンパク質食材が含まれていた。
    1. セクション1:J-FNS-A(改良版「馴染みのない食べ物への馴染めなさ感評価表」の日本版)
      • 被験者は、8項目の J-FNS-A の質問に回答するよう求められた。
      • 被験者は、各質問に、1〜7点のリッカート形式で回答した(まったく賛成できない=1、賛成でも反対でもない=4、非常に賛成できる=7)。
      • J-FNS-A 分析の際には、8項目のうち「接近」に属する最初の4項目については、(「忌避」に属する残りの4項目と質問内容が真逆なので)その点数を反転(7→1, 6→2, …)させて計算した。
      • よって、点数が高いほど、馴染みのない食べ物への嫌悪感がより強いことを示す。
    2. セクション2:馴染やすさ
      • 被験者は、7種類の異なるタンパク質食材(牛挽き肉、豆腐、大豆肉、培養肉、コオロギパウダー、ミールワームパウダー、藻類パウダー)を含むハンバーガーに対する馴染やすさを表現するように求められた。
      • 被験者は、1〜6段階(まったく馴染みがない=1、非常に馴染みがある=6)で馴染やすさを採点した。
    3. セクション3:食べる意思(WTE)
      • 被験者は、セクション2と同じタンパク質食材を含むハンバーガーを食べる意思について質問された。
      • 被験者は、1〜6段階(まったく食べたいと思わない=1、非常に食べてみたい=6)で馴染やすさを採点した。

調査結果

  • 確認的因子分析(CFA)に基づく J-FNS-A の2因子モデルのパス図を図1に示す。
  • 図1のモデル適合度は、GFI=0.96, CFI=0.95, RMSEA=0.087, SRMR=0.047 となり、基準を満たしていた。[訳注:モデル適合度とは、統計的につじつまが合っているか、を表し、基準を満たしているということはつじつまが合っていいるということ]
  • 2因子モデル(「接近」と「忌避」)間の関連性は r=-0.53 となり、関連性が強いことを示した。
  • 信頼性係数は、接近α=0.80, 忌避α=0.83, 8項目全体α=0.83 となり、内部的一貫性が全て満たされていることを示した。
  • 8項目質問 J-FNS-A スコアのヒストグラムを図2に示す。
  • J-FNS-A スコアと年齢の間には有意な関係性はなかった(r=0.007)。
  • 男性と女性の J-FNS-A スコアの間にも有意な関係性はなかった(男性平均値=4.13、女性平均値=4.17,r=0.02)。

様々な種類のタンパク質で出来たハンバーガーに対する馴染やすさ、および食べる意思

  • 様々な種類のタンパク質で出来たハンバーガーに対する馴染やすさ、および食べる意思の結果を図3に示す。
  • 馴染やすさについて、分散分析で繰り返し計測したところ、タンパク質食材の種類に有意な主要効果があることが示され、さらに、馴染やすさについての事後検定も全て有意であった。
  • 牛挽き肉のハンバーガーが最も馴染みやさが高く、ミールワームパウダーのハンバーガーが最も低かった。
  • 食べる意思についても、タンパク質食材の種類に有意な主要効果があることが示され、事後検定も全て有意であった。
  • 馴染やすさについては、コオロギパウダーと藻類パウダーの間にほとんど違いがなかったが(r=0.04)、食べる意思については、藻類パウダーのほうがコオロギパウダーよりも通常以上に高い値を示した(r=0.4)。[訳注:日本人被験者は、藻類パウダーのみ、馴染みがないと感じつつ食べる意思を高く示した、ということである]
  • さらに食べる意思についての相関分析では、タンパク質食材の種類に有意な関連性を示し、特に関係性が強かったもの(rs>0.8)は、豆腐と大豆肉、コオロギパウダーとミールワームパウダーであった(補足表3を参照)。[訳注:日本人被験者は、これら2つの組み合わせを同類と見なしている、と考えられる]
  • 加えて、食べ物基準の分析では、馴染やすさと食べる意思の間に有意な関連性が示された(r=0.92, p<0.001)。[訳注:日本人被験者は、馴染みのある食材ほど食べる意思を高く示した、ということである]
  • 培養肉への食べる意思と年齢の間の相関分析でのみ、年齢が高くなるにつれて食べる意思が減少するという有意な関連性が示された(補足表4を参照)。[訳注:日本人被験者の各食材に対する食べる意思には、年齢はほとんど影響はなかったが、培養肉を食べる意思のみ、年齢が高くなると食べる意思が減少する傾向が見られた]
  • 豆腐と大豆肉への食べる意思は女性の間で男性より高い値が示された一方、培養肉、コオロギパウダー、ミールワームパウダーの食べる意思は男性の間で女性より高い値が示された(補足表5を参照)。

代替タンパク質食材を食べる意思

  • 各代替タンパク質食材に対する比較結果を見ると、食べる意思の高さについては、大豆肉、藻類パウダー、培養肉、昆虫食(コオロギとミールワーム)の順番となり、これは他国での結果とも一致する。
  • 大豆肉を含むハンバーガーを食べる意思は、豆腐ハンバーガーよりも低かった。日本では、豆腐をハンバーガーパテとして食べる習慣はないが、分析結果から分かるように、食材の調理法よりも、食材そのものへの馴染やすさが、食べる意思により貢献していた可能性がある。
  • また、似ている食材が食べる意思と関連性があった可能性があり、本研究では、豆腐と大豆肉、コオロギパウダーとミールワームパウダーの間に強い相関関係(r=0.82)が見つかっており、日本人被験者には、これらの組み合わせが類似したものと認識されたことを示している。
  • このようなタンパク質食材間の類似性が存在している理由としては、それぞれの代替タンパク質食材に対する印象は均一なものではなく、いくつかのグループ単位で認識されたためと考えられる。
  • この類似性は、代替タンパク質食材を評価、効能、機能性の側面から計測した研究とも一致しており、日本人は代替タンパク質を植物性ベースのもの、動物性ベースのものの原料に分類分けをしていたことを示している。
  • 日本人は、藻類パウダーでできたハンバーガーに対して、他国の人々よりも高い食べる意思を持っているようである。馴染やすさについては、コオロギパウダーと藻類パウダー間の違いは小さかった(r=0.04)にもかかわらず、藻類パウダーでできたハンバーガーを食べる意思は、コオロギパウダーでできたハンバーガーよりも通常以上に高い値であった。この結果は、食材レベルの分析における馴染やすさと食べる意思の間の回帰線(r=0.92)から逸脱していた。
  • 別の日本の研究によれば(Takeda KF, その他. Comparison of public attitudes toward five alternative proteins in Japan. Food Qual Prefer. (2023))、藻類と昆虫食に対する日本人の態度の違いは、日本人被験者は藻類に対して、日常生活で馴染みのある食べ物である海藻類(海苔、ワカメ、あおさなど)を連想したからである。従って、日本のある地域では食虫習慣が伝統的な習慣であるにもかかわらず、大部分の現代の日本人は、昆虫を食べ物ではなく、周囲に存在する奇妙な姿の生き物として連想する傾向があり、そのため日本人は昆虫を食べる気にならないのだ、と推測するのは理にかなっている。

ライセンス

訳注:本研究は Creative Commons Attribution 4.0 International (CC BY 4.0) のライセンスに基づき公開されたものである。本文は、この英語で書かれた本研究の原本から要旨を抜粋して日本語に翻訳したものである。

 

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