社会ネットワークの転換におけるパレートの効果 少数派から多数派へ

論文概要

 

社会ネットワークはどのように転換するのか? 有力な理論として、ごく少数の集団が全人口規模の社会変革を引き起こすというものがある。これはパレートの法則と呼ばれる半定量的法則と一致し、多くのシステムでは結果の80%は原因のうちの20%から生じるとされる。温室効果ガス排出のネットゼロへの移行に関してみた場合、この20%は極めて重要であり、社会規範を急速に変容させ、社会的転換を引き起こす契機となり得る。

本稿では社会システムの中でパレート効果が実際に見られるかどうかを検証するため文献を検証し、特に社会規範の拡散と社会ネットワークを介した複雑な伝播現象に注目した。

社会的転換に関する様々な研究領域のシミュレーションおよび実証実験のデータを大規模なパラメトリック空間において分析した結果、これまでの研究で一貫して見られるパターンが明らかとなった。また、社会的転換を促進または阻害する主な要因が特定された。

収集された上記のデータに関しては総人口の約25%付近に転換点が存在することがわかった。このクリティカルマスの近傍では、社会的転換が発生する可能性が高く、その場合、人口の大多数が急速に新たな規範を採り入れることになる。シミュレーションと実証実験では得られる結果にわずかな違いがあり、平均的な転換点はそれぞれ24%と27%となっていた。さらに、社会的転換が可能となるクリティカルマスは10%から43%の範囲にあることがわかった。これらの結果は、影響を受けやすい集団や状況において社会的変化が急速に起こり得ることを示しているが、こうした変化が必ず起こるということを意味するものではない。

最後に、社会規範を変えるのが難しい状況において変化を推進するためには、実践的には以下のような指針が挙げられる:1.信頼できるコミュニティ構造を活用し、ネットワークの密度が高いところで(閾値となる10%~43%の規模で)クリティカルマスを構築する、2.戦略を社会規範の内容と状況に適合させる、3.内発的な拡散を可能にするため、ターゲットはネットワーク内に一定の位置を持つ穏健なグループとし、特定の中心的人物や個人間の強い絆に依存することを避ける。

 

原文タイトル:The Pareto effect in tipping social networks: from minority to majority

論文著者:Jordan P. Everall, Fabian Tschofenig, Jonathan F. Donges, and Ilona M. Otto

公開日: 2025/01/28 

論文URL:https://doi.org/10.5194/esd-16-189-2025

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