社会規範の変化を訴えて肉の消費削減を促すメッセージの効果 職場食堂における無作為化比較試験

論文概要

 

背景: 肉の大量消費は地球の健康に対する脅威である。肉の消費には社会的・文化的なパターンがあるため、社会的規範を利用した戦略は肉の消費削減を促すうえで有効な介入策となり得る。

方法: 社会規範の変化を説明したメッセージ(例:「ベジタリアンのメニューを選ぶ人が増えています」など)を作成して職場食堂に掲示し、肉を含まない食事の選択が増えるかどうか、その有効性を検証した(介入群 12人・対照群 13で合計25人)。メッセージの開発は先行研究の知見に基づき、食堂を運営するケータリング会社と共同で行った。

メッセージでは、対象とする行動に関する変化を具体的に説明し、期待される行動変化について(職場の同僚など)共感しやすい比較対象を提示しつつ明確に行動を求める内容とした。介入を実施した各食堂では、社会的規範に関するこのメッセージをスタンド看板・ポスター・床のステッカー*を用いて8週間にわたって掲示した。

肉を使わない食事の週当たりの販売割合の変化について、線形混合効果モデルを用いて介入群と対照群の食堂を比較した。介入群の食堂では介入が正確に行われたことを確認するとともに、利用者が介入をどのように認識しているかをインタビューによって評価した。

結果: 今回の介入によって肉を使わない食事の販売数が増えたというエビデンスは得られなかった(変化量 -2.22 %、95%信頼区間 [-7.33, 2.90]、p = 0.378)。介入前におけるベジタリアンメニューのベースライン売上は施設ごとに異なっていたが、ベースライン売上が多い施設と少ない施設で介入効果に有意差はなかった。また、介入によって食事全体の売上が変化したというエビデンスもなかった。介入は正確に実施されたが、インタビューに応じた利用者155名のうち57%はメッセージに気づかなかったと回答し、メッセージの内容を正しく記憶していたのはわずか2%であった。

結論: 先行研究の知見を踏まえ、社会規範の変化を説明したメッセージを共同で作成して職場食堂で掲示したが、これによって肉を使わない食事の売上が増加したというエビデンスは得られなかった。これは、多忙でペースの速い環境ではメッセージが目立ちにくいことや、職場食堂では個人の食習慣が既に強く定着していることに起因する可能性がある。肉の消費には複雑で社会的な基盤があるため、社会規範の変化を訴えるメッセージを単独で介入に用いた場合、食行動の変化を促すには有効ではない可能性がある。

* 実際に使われた看板やポスターは以下を参照(Figu. 1)  https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC12345364/#Sec21

 

原文タイトル:Testing the effect of a dynamic descriptive social norm message on meat-free food selection in worksite cafeterias: a randomized controlled trial

論文著者:Elif Naz Çoker, Rachel Pechey, Susan A Jebb

公開日: 2025/08/12 

論文URL:https://doi.org/10.1186/s12916-025-04302-9

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