見失われた目標:なぜ工場式畜産業を気候変動問題の中核に据えなければならないのか

論文概要

 

要約

多数の国の様々な産業分野が、パリ協定(気候変動)で義務付けられた NDC(訳注:Nationally Determined Contribution=国が決定する貢献)の一環として、地球規模での温室効果ガス削減目標に真剣に取り組んでいる。ところが、工場式畜産業は概して意図的に対象から外されるか、優先度を下げられている。しかし一方では、工場式畜産業分野を対象から除外してしまうと、たとえ化石燃料の利用をただちに止めたとしても、必然的に地球全体で摂氏1.5度、ないしは最大でも摂氏2度までに気温上昇を抑えるという目標が達成できなくなる、という見解もある。工場式畜産業に関連する目標の必要性について、さらなる議論と評価を促進するため、本研究では、工場式畜産業が環境に与える影響に関する近年の研究の比較・分析を行った。収集した579件のうち、最終的には47件の研究に絞り込んだ。これら47件のうち、4分の3以上(37件、79%)が、工場式畜産業が気候変動および広範囲に渡る環境問題に対して、これまでにもたらして来た(そして今後ももたらし続けるであろう)相当量の悪影響に対して明確な懸念を示していた。工場式畜産業の影響は、年間の地球全体の温室効果ガスの12%〜20%を占めており、食料が原因で発生する富栄養化(訳注:海や河などの水域に過剰な栄養がたまり、植物プランクトン等が異常発生し、生態系のバランスが崩れること)の50%、土壌酸性化の32%、土地占有の76%の原因となっている。これらの現象は全て生物多様性の損失の大きな原因であり、ひいては気候変動をさらに悪化させる。残り4分の1の研究では、工場式畜産業は環境に対してほとんど影響がない、とは断言はしていなかったが、これらの研究の調査結果は、様々な点において不明瞭であったり(例えば、計測方法として最適とは言い難い方法を用いていることを示唆している、など)、あるいは研究手法に欠陥があった。本研究では、急ぎ対策が必要な問題として、動物製品の生産と消費の大幅削減という目標を、COP30 などの気候変動対策のための議論と政策方針に組み込むことを推奨する。

キーワード:牧畜、畜産業、気候変動、気候危機、環境、二酸化炭素、メタン、二酸化炭素当量、土地占有、生物多様性の損失

1. はじめに

本研究の目的は、”工場畜産業はどのくらい環境に対して負の影響をもたらすか?”という疑問に関して迅速なレビューを実施することである。

2. 用いた手法

本研究では効果的な結果を生み出すために、コクランの迅速レビューの実施方法ガイダンスの最新版に従った迅速レビュー法を採用した。迅速レビュー法を用いることで、広範囲に渡るレビューがより簡単になり、その結果として他の方法では実現できないような洞察力に富んだ意義のある結果を生み出すことができる。

対象論文の収集・検索方法は以下の通り。

  • 適切な文献の入手のために、Scopus を主要なデータベースとして用いた。
  • これに加えて Google Scholar サーチ(最初の5ページの検索に限定)、Google ウェブ検索(直近1ヶ月以内に発表された結果に限定)、Gemini、Perplexity 等々の LLM を用いて見つけた文献、最新の Food and Agriculture Organization からのレポートで補完した。
  • 文献のクオリティを重視し、検索対象は論文、論評記事、書籍に限定し、学会誌や書簡などは除外した。
  • 中心となる研究員たちが研究に使う言語が英語とドイツ語であったため、対象となる研究はこの2つの言語に限定された。
  • 最新の気象科学の技術成果を用いた新しい研究結果を優先するため、2010年〜2025年の間に発行された研究のみを対象とした。

絞り込み方法は以下の通り。

  • 工場式畜産農法が気候変動・環境に与えるインパクトを研究目標の中心として考慮していること。
  • タイトル、概要、キーワードとして、畜産業(またはそれと同等の用語)を挙げていること。
  • 畜産業が気候変動・環境問題の一因となっている度合いを、独自の査定方法、あるいはシステマティック・レビューにより数字として書き出していること。
  • 比較可能な要素を含んでいること。例えば、動物の数を減らした場合との比較、より集約的畜産にした場合と穏やかな畜産にした場合との比較、他地域との比較、別の畜産動物種との比較、など。これは各研究結果の数字を同化させたときに、その数字が有意義なものとして解釈できるようにするために必要となる。

検索方法と絞り込み方法の概略を図1に示す。

図1:今回の迅速レビューで用いたシステマティック・レビューのための PRISMA フロー図

3. 結果

  • 絞り込みの結果、合計47件の研究が本研究のレビューの対象となった。
  • 47件中、37件(78.7%)は工場式畜産業が気候変動、および広範囲に渡る環境への影響を引き起こす大きな要因のひとつである、と述べていた。残り10件(21.3%)は、あまり影響はない、と示唆しているか、あるいは結論があいまいであった。
  • 47件中、9件は対象がグローバル規模であったが、半数以上(27件、57.4%)はいわゆる先進諸国と呼ばれる国や地域を対象としていた。10件がグローバルサウスと呼ばれる新興国を対象としていた。1件だけが先進国、新興国それぞれ1国ずつを対象としていた。
  • 環境への影響の計算を行うための方法には様々な方法が用いられていたが、66%がライフサイクルアセスメント(LCA)を用いていた。しかし、LCA においても、様々なタイプの LCA が用いられていた。
  • 対象をグローバル規模とした9件の研究のうち、最も広範囲にわたるグローバル規模研究であった5件を、表1に要約して示す。
表1:本研究のレビュー対象のうち、最も広範囲にわたるグローバル規模の研究から得られた重要な特質と調査結果

注:表中の研究は、測定基準のカテゴリ順、および温室効果ガス排出割合の降順に並べてある。重要なパラメーターについては全てのパラメーターが表中にリスト化されてはおらず、特別に注目すべきものだけをリスト化した(通常は考慮されないことが多いため)。加えて、記載がない限りは、漁業、水産養殖業、昆虫飼育業、農場から出たあとの処理は研究対象から除外されている。しかし、Wedderburn-Bisshop は底引き網による影響を考慮していた。N/A は、その研究では確実な測定基準による計測結果がないことを示す。

4. 結論

47件の最終候補の論文のうち、4分の3以上が工場式畜産業は気候変動と広範囲に渡る環境に対して、明確かつ有意に負の影響を持つことを示した。地球全体の年間の温室効果ガスのうち、工場式畜産業が原因となっている割合は、最も大きい推定値では20%以上を占め、さらには現在の温暖化の原因の52%を占める、という結果であった。これはメタン排出がとりわけ大きな要因となっているためである。工場式畜産業は、全世界の土地利用の80%以上を占めているが、タンパク質供給量では37%、カロリー供給量では18%しかない。この点を鑑みて、工場式畜産業(とりわけメタン排出量)に的をしぼった温室効果ガス削減目標を、公共政策・グローバル規模の協定として考慮しなければならない。

 

原文タイトル:The Missing Target: Why Industrialized Animal Farming Must Be at the Core of the Climate Agenda

論文著者:Jenny L. Mace, Andrew Knight, Fernanda Vieira, Patricia Tatemoto and Mariana Gameiro

公開日: 2025/11/10 

論文URL:https://www.mdpi.com/2076-2615/15/22/3256

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