規制毒性学における新たな評価技術 導入の是非ではなく、その方法と時期が問われている

論文概要

 

動物を用いて化学物質の安全性を評価する現在のアプローチに対する社会の圧力はますます強くなっている。こうしたアプローチに関しては、その全体的な成績や持続可能性、ヒトの健康に関するリスク評価手法としての妥当性のほか、倫理的な観点からも疑問が持たれており、パラダイムシフトが必要とされている。一方、リスク評価のための科学的ツールとしては「動物実験に代わる新たなアプローチ New Approach Methodologies(NAMs)」があり、さらなる開発が進められている。

用語としての NAMs はイノベーションが導入された時期や成熟度を明確に示すものではないが、幅広い手法を包含しており、具体的には定量的構造活性相関(QSAR)による予測・ハイスループットスクリーニング法によるバイオアッセイ・オミクス技術の応用・細胞培養・オルガノイド・微小生理学的システム・機械学習モデル・人工知能(AI)などが含まれる。

NAMs では毒性試験がより迅速で効率的となるだけでなく、規制に関連する作業を根本的に変える可能性があり、危険性と曝露レベルの評価において人体への影響により直結した判定が可能となる。一方、現行の規制に基づくリスク評価ではいくつかの障壁が存在し、NAMs が広く導入されるには至っていない。特に慢性的な毒性など、反復投与に伴う毒性の評価には制約があるほか、ステークホルダーがNAMsの導入に消極的であることが主要な課題となっている。さらに、予測性や再現性、定量化に関する問題に取り組む必要があり、NAMs に合わせて規制と法的な枠組みを整備する必要もある。

本稿では化学物質の危険性評価に関する概念的枠組みについて概説するが、これは2021年11月にベルリンで開催されたシンポジウムおよびワークショップでの主な知見と結論に基づくものである。ここでは今後の展望に関してさらなる知見を提供し、ヒトの健康を守るための化学物質のリスク評価にNAMsを段階的に統合し、現在の手法から動物を使わない「次世代のリスク評価(NGRA)」に移行するまでの道筋について解説する。

 

原文タイトル:New approach methodologies in human regulatory toxicology – Not if, but how and when!

論文著者:Sebastian Schmeisser, Andrea Miccoli, Martin von Bergen, Elisabet Berggren, Albert Braeuning, Wibke Busch, Christian Desaintes, Anne Gourmelon, Roland Grafström, Joshua Harrill, Thomas Hartung, Matthias Herzler, George E.N. Kass, Nicole Kleinstreuer, Marcel Leist, Mirjam Luijten, Philip Marx-Stoelting, Oliver Poetz, Bennard van Ravenzwaay, Rob Roggeband, Vera Rogiers, Adrian Roth, Pascal Sanders, Russell S. Thomas, Anne Marie Vinggaard, Mathieu Vinken, Bob van de Water, Andreas Luch, Tewes Tralau

公開日: 2023/07/04 

論文URL:https://doi.org/10.1016/j.envint.2023.108082

別のFACTを探す