食肉削減のカギとなる道徳心理学のメカニズム

論文概要

 

工場畜産で飼育される動物は非常に残酷な扱いを受けている。 しかし、多くの消費者はこの動物たちを食べることが道徳的に間違っているとは信じていない。 道徳心理学は人々の考えを変えることができるのだろうか?

畜産動物の扱いが酷いものであることについては多くの情報があり、容易に入手することができる。また、米国で消費される食肉のほとんどは工場畜産によるものである。ほとんどの消費者はこのことを知っているにもかかわらず、信じようとしないまま動物性食品の消費を続けており、多くの学者はこれを肉食者の「意志の弱さ」として片付けている。肉食を減らすことやベジタリアン・ヴィーガンのキャンペーンは、理由の如何にかかわらず、相変わらず困難なままである。

健康に関するメッセージを使って肉を減らすことを促す方法は、しばらくの間は有効である。しかし、著者らによれば、この効果はベジタリアン・ヴィーガンに取り組む多くの人にとって長く続くものではない。健康ブームは一時的なものであることが多く、そうした理由で肉の消費量を減らしても長続きするとは限らないのである。

長期的な食習慣の変化は、倫理を訴えることによって促せるという傾向にはある。しかし、このやり方は大多数の肉食者には効果がない。工場畜産で動物たちが苦しんでいること、そして動物虐待が道徳的に間違っていることを知れば、消費者は(理論的には)工場畜産を支持することも同様に間違っていると考えるはずである。しかし残念ながら、すべての人がこうした結論に至るわけではない。

従って、著者らによれば、肉食を続ける消費者の多くに見られるのは、意志の弱さではない。問題はそうではなく、道徳心理学の概念である「動機づけられた推論」と「社会的証明」の2つである。      

動機づけられた推論

動機づけられた推論とは、自らの中にある偏見に基づいて判断や意思決定を行うことである。たとえば、自分の見方を確かめ、他の考え方を無視するためにニュースやソーシャルメディアのコンテンツを積極的に読む場合や、自分の認識に合わない物事を都合良く誤解して記憶する場合などがそれである。

動機づけられた推論もまた、食肉消費に関わっている可能性がある。工場畜産の実態は容易に知ることができるが、畜産業における動物虐待は稀なものだと多くの消費者が信じている。動物は痛みを感じない、あるいは人間は他の動物より優れているといった信念を採り入れることにより、肉を食べたいという欲求を正当化する理由にする人もいる。

こうした傾向に抗う方法の一つは、人々に「道徳的一貫性」を促すことである。動物福祉に取り組む活動家は、肉食者に働きかけて食べられる動物との間に繋がりを創り出すことができ、こうした感情面の結びつきを通じて行動変容を促すことが可能である。たとえばコンパニオン・アニマルと畜産動物の類似点を説明する、あるいはサンクチュアリで畜産動物と触れ合うことを消費者に促すことが考えられる。

嫌悪感や共感といった強い感情に訴えつつ、その一方で道徳的一貫性を促せば行動変容を強く推進できる可能性がある。例えば、ある実験で肉食者に工場畜産のビデオを1ヶ月にわたって見せたところ、ほとんどの肉食者では動機づけられた推論は変わらなかったものの、一部には自らの道徳観を詳しく見直し、食習慣を改めたという人も見られた。

社会的証明(ソーシャルプルーフ)

社会的証明とは他者を見て意思決定を下すことであり、その場合、身近な人々の行動は特に重要である。研究によれば、他者が取り組んでいる行動(例えばホテルでのタオル再利用など)について消費者に説明すると、説明されたその消費者も同じ行動を取るようになることがわかっている。つまり我々は、社会規範に従い、さまざまな社会関係の中で行動する以前に、まず他の人々に目を向けていることが多いのである。

雑食の人は肉を食べることがそもそも悪いはずがないと考えており、これは周囲の大多数が肉を食べるのを見ているためである。ベジタリアンの多くが再び肉を食べ始めることも、この考えを後押しする結果となっており、これは食を取り巻く社会状況によるところが大きいというのが著者らの主張である。

著者らによれば、心理学の立場から社会的証明を克服するうえで特に重要となるのは、社会的影響力のある人々であり、こうした人々の間で肉を減らすことを奨励し、活動のメッセージには社会規範の変化を掲げることが勧められている。

もうひとつの戦略は、学校や食堂、その他の社会施設のメニューの中でベジタリアン・ヴィーガンの選択肢をデフォルトにすることである。 肉を使わない料理がデフォルトの選択肢となっているのを見た利用者は、それが妥当な社会規範であると認識するはずである。

全体として、肉を食べたいという傾向は人々の中に深く根付いたものではあるが、こうした習慣に影響を与え、長期的には変えていく方法は存在する。すべての人にベジタリアン・ヴィーガンを勧めることはできないとしても、動機づけられた推論や社会的証明の背景にある心理を利用すれば、工場畜産で飼育される無数の動物たちのために状況を変えることができる。

参照文献: May, J. & Kumar, V. (2022). Harnessing Moral Psychology to Reduce Meat Consumption. Journal of the American Philosophical AssociationFirst View, 1-21. https://doi.org/10.1017/apa.2022.2

 

原文タイトル:Moral Psychology: A Key Ingredient In Meat Reduction

論文著者:Amanda Favara

公開日: 2023/09/29 

論文URL:https://faunalytics.org/moral-psychology-a-key-ingredient-in-meat-reduction/

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