論文概要
人類は人工知能 artificial intelligence (AI) を生活に応用する新たな方法を次々と発見している。AIは動物に危害を及ぼす可能性があり、これは意図して行われる場合と意図されることなく発生する場合がある。この論文ではこの両面から可能性について考察している。
歴史を通じて人類の技術は動物にとって助けになることもあれば害をもたらすこともあった。例えば、農業機械の発達のおかげで動物が重い荷物を引く必要はなくなったが、一方では近代的な工場畜産が進んだ結果、年間で数十億頭もの動物が閉じ込められ、搾取され、屠殺されるようになった。
人工知能 artificial intelligence (AI) をどのように活用するか、その探求が続けられているが、著者らによればこうした技術には動物の利益を無視しかねないという懸念がある。 AIが動物に害を及ぼす可能性を理解するため、本稿では「危害のフレームワーク」と呼ばれる枠組みを構築し、危害が故意による場合と故意ではない場合、直接に危害が及ぶ場合と間接的に作用する場合に分類している。このフレームワークでは、AI技術の設計とこれに対する規制において動物福祉への配慮を取り入れる明確な根拠を示すことが目標とされている。AI が動物にもたらすリスクをなぜ検証する必要があるのか、著者らはまず主な理由として以下の3点を挙げている。
- 動物には感覚意識があり、倫理の観点から道徳的価値を持った存在とみなす必要がある。
- 人間と動物は相互に依存しており、動物に害を及ぼすAI技術は人間にも有害である可能性がある(逆もまた然り)
- これまでAIをめぐる倫理学の言説では、動物の存在は見過ごされるか、動物の幸福が考慮されるとしてもそれは人類の幸福に役立つ範囲でしかなかった。
著者らのフレームワークは、動物福祉の研究者デビッド・フレイザーの業績に基づくものであり、AIが動物に危害を及ぼす可能性について5つの類型を想定している。
- 故意による非合法の危害: このカテゴリーでは、AI技術が非合法に設計されて動物に危害を与える、あるいはAI技術そのものは合法であっても、非合法あるいは社会的に非難される方法で悪用される。例えば、野生動物を違法に取引するためドローンを使って動物を追跡することや、本来は保護を目的として動物を追跡するはずのドローンが密猟者にハッキングされる場合などがこれにあたる。
- 故意による合法の危害: 社会的に容認される方法で設計されたAI技術が動物に危害を加えることもある。例えば、AIが農業業界で利用されることで工場畜産を推進し強化することにつながる可能性がある。同様に、研究によって動物実験を可能にする技術が生み出される可能性もある。
- 故意による直接の危害: 社会的な利益のために設計されたAI技術は、動物の存在を考慮に入れないために意図せず動物に危害を加えることがある。例えば、水中のゴミを収集するためのAI装置は、誤って一部の水生動物に危害を及ぼす可能性がある。 故意によらない直接の危害はまた、AIが誤作動を起こした場合にも起こり得る(例えば、自動給餌装置の誤作動で動物に十分な餌を供給できない場合など)。
- 故意による間接の危害: 一般的に見れば有用なAIであっても間接的に動物に危害を及ぼす可能性はあり、物質的な形で起こる場合(例えば、AIからの炭素排出は気候変動の一因となり得る)、人々の認識に影響を及ぼす場合(例えば、肉食と結びついた人間中心主義の偏見や娯楽のための動物利用が、AIのアルゴリズムによって強化されることなど)などが考えられる。さらに、AI技術によって動物と世話をする人間との距離が広がるとすれば、動物のニーズを理解するのが人間には困難になる可能性がある。
著者らによれば、動物を守るためにAIには投資せず、開発もしないという選択は、これらとは異なる害につながる。例えば、AIを用いることで動物が研究に使われることがなくなり、プラントベースの優れた代替肉を開発できる可能性があるが、こうした技術の実現には投資と支援が必要である。
さらに、AIが動物にとって害になるかどうかは、こうした技術の開発や規制に関与する人間にかかっている。例えば、大規模農業のために開発される農業技術は、畜産動物の保護を主張する活動家が求める技術とは目的が大きく異なる可能性が高い。このため、活動家はAI分野に積極的に関与する必要があり、動物たちのためにそのニーズを代弁していかなければならない。
AIは人間や動物に危害をもたらす可能性があり、その影響は極めて広い範囲に及ぶものであることを社会で常に周知させていく必要がある。そのため著者らはさらに、動物福祉に関わるAI利用についての原則の策定にはこの領域の専門家が関与することが必要であり、AIガイドラインの対象に動物を含めること、AIシステムに関わる法律や規制に動物福祉の問題を取り入れることを提言している。
参照論文: Coghlan, S. & Parker, C. (2023). Harm to Nonhuman Animals from AI: a Systematic Account and Framework. Philosophy & Technology, 36(25).
原文タイトル:How Might AI Harm Animals?
論文著者:Antonieta Pais Lopes
公開日: 2023/12/11

