獣医倫理講座に効果はあるか?

論文概要

 

倫理講座は、獣医学生にとって、たとえ意見を劇的に変えることはないとしても、倫理的なジレンマに対しよりニュアンスを持って考えるようになる機会となる可能性がある。

獣医師は、常に倫理的に困難な状況に直面することになる仕事である。動物の治療方法について難しい道徳的判断を迫られることも多く、その判断が患者である動物の生死に関わることもある。そのため、EUでは2005年から、すべての獣医学部のカリキュラムに倫理の科目の設置を義務づけている。しかし、倫理の授業を受けたからといって、獣医師が直面するジレンマに対し、より思慮深い倫理的な推論を行うようになるかどうかは定かではない。

研究者たちはドイツの獣医学部の学生に、道徳的判断を試す一連の質問に答えてもらった。 回答した86人の学生のうち、61人は倫理の授業を受けたことがあると答えた。質問では、病気の牛を獣医に診てもらいたくない農家や、娘のモルモットの救命治療費の支払いを拒否する母親など、倫理的に困難なシナリオについての考えを回答している。

倫理講座を受講した学生とそうでない学生の回答とで、判断や視点における量的に有意な差は確認できなかった。ほとんどの学生は、人間の経済的利益と動物の福祉との間の葛藤に取り組んでいるようであった。そのような場合、生徒たちは動物を救うことが経済的利益に繋がっているのだと、動物の保護者を説得しようとすることが多かった。

質的分析を行った結果、いくつかの違いが明らかになった。 各シナリオの主な「利害関係者」は誰かを尋ねると、学生は、命が危険にさらされている動物よりも、利害が対立する獣医師と人間の顧客のほうを挙げることが多かった。興味深いことに、モルモットに関するシナリオでは、倫理講座を受講したことのある学生(37%)のほうが、そうでない学生(15%)よりも、その動物を安楽死させることを選択する割合が高かった。

倫理講座を受講している生徒は、追加情報を尋ねる傾向も強く、目の前の問題の原因と解決策の両方をより幅広く示す傾向があった。このことは、学生が倫理講座を通じて、動物福祉のジレンマに関して多々ある考慮すべき事項は何なのか、また、そのジレンマにおいて競合する利益をより批判的に見る視線を学んでいることを示していかもしれない。

この研究はサンプル数が限られており、ドイツの単一の獣医学部に限定されていることに留意する必要がある。また、文化や生い立ちなど他の多くの外的要因が、倫理講座以上に学生の倫理観に影響を与える可能性も勿論ある。しかし、この研究は倫理講座が与える影響について基礎的な知識を得るのに役立つ研究である。学生の意見を変えることはできないかもしれないが、道徳的推論の質を向上させる可能性はあることが分かった。この研究結果は暫定的なものであり、動物倫理講座の内容がすべて同じでないことを考慮すると、他の機関や国で今回のような研究を行った場合には、また異なる結果が得られるかもしれない。

※本記事はこの記事の最下部にある論文のFaunalyticsのリサーチャーによる要約を、同団体の許可を得て翻訳したものです。

 

原文タイトル:Assessing Moral Judgements in Veterinary Students: An Exploratory Mixed-Methods Study from Germany

論文著者:Kirsten Persson, Wiebke-Rebekka Gerdts, Sonja Hartnack & Peter Kunzmann

公開日: 2022/02/25 

論文URL:https://www.mdpi.com/2076-2615/12/5/586

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