論文概要
この論文では、採卵鶏の5つの品種(在来種2種、中程度の成長速度を持つハイブリッド種との交雑種2種、商業用ハイブリッド種1種)に対する、エンリッチドケージ、および放し飼いの飼育システム下での行動の調査、研究を行っている。
採卵鶏の福祉の向上は、疫病の蔓延を防ぎ、ストレスを軽減し、卵の品質を向上させ、また鶏の死亡率の低下、生産性の向上にも貢献し、また、倫理的・人間的な観点からも重要である。
2012年に施行されたEUの指令1999/74/ECは、採卵鶏の従来型ケージ飼育を禁止しており、福祉基準を遵守するために、ケージを使わない代替システムが不可欠であることを強調している。
採卵鶏の放し飼いシステムは、通常、開けた草地、日陰、シェルターが含まれており、鶏が自由に動き回り、採餌や砂浴びなどの自然な行動をとり、社会的な交流を増やすことができ、ストレスが軽減される環境となっている。ただし、従来より広いスペースが必要であり、複雑な管理が必要になることが課題となる。
試験方法
試験は2022年9月から2023年6月にかけて、Ozzano dell’Emilia(イタリア、ボローニャ)で行われた。
試験内容の詳細は原論にて記載されている。
以下は、試験された鶏の品種と、飼育環境についての表である。
| 品種 | エンリッチドケージ (1羽あたり0.144m^2) | 放し飼い (1羽あたり1.066m^2) |
|---|---|---|
| Lohman Brown(LB) | 1区画15羽が、3区画 | 1区画5羽が、3区画 |
| Bionda Piemontese(BP) | 1区画15羽が、3区画 | 1区画5羽が、3区画 |
| Robusta Maculata(RM) | 1区画15羽が、3区画 | 1区画5羽が、3区画 |
| Bionda Piemontese(BP) x Sasso | 1区画15羽が、3区画 | 1区画5羽が、3区画 |
| Robusta Maculata(RM) x Sasso | 1区画15羽が、3区画 | 1区画5羽が、3区画 |
結果① 観察された行動
- 飼育システムによる違い
放し飼いの鶏では、「つっつく」、「喧嘩」、「しゃがむ」、「自己羽繕い」、「脚のストレッチ」といった行動の頻度が多く、エンリッチドケージの鶏では「餌箱での採食」と「羽のストレッチ」がより多く見られた。
- 品種による違い
品種間においても、「引っかき行動」、「餌箱での採食」、「草を食べる・物のつっつき」、「走る」、「他者への羽繕い」、「喧嘩」、「立つ」、「砂浴び」、「自己羽繕い」など、様々な行動において有意な差が観察された。
採食に関して、特にLBでは、「餌箱での採食」の頻度が多く、「草の採食、物のつっつき」は少なかった。
「ひっかき行動」については、品種間においても(p < 0.001)、飼育システムにおいても(p < 0.001)、有意な差が見られ、LBは「ひっかき行動」の割合が最も低く、RM、BPは「ひっかき行動」の割合が最も高かった。
運動行動の「走る」行動については、LBは「走る」行動の頻度が低いのに対し、RM、RMxSは「走る」行動の頻度が高かった。
「他者への羽繕い」「喧嘩」といった社会行動も品種による有意な差が見られ、LBは社会行動に費やす時間が短かった。
休息行動のうち、LBは、「立つ」行動の割合が最も高かった。
「砂浴び」「自己羽繕い」といった快適行動では、LBが最も快適行動を行う頻度が低かった。
- 年齢による違い
年齢による行動への影響については有意な差は見られなかった。
結果② t-SNE行動パターン
飼育システムが行動パターンに与える影響について、t-SNE法(t-distributed Stochastic Neighbor Embedding)を用いて検証を行っている。
図の、上部のクラスターはエンリッチドケージ、下部のクラスターは放し飼いを表す。
色が濃いほど高頻度、色が薄いほど低頻度であることを示す。

結果③ 緊張性不動反応テスト(Tonic Immobility: TI ※恐怖感受性テスト)
品種間での有意な差は見られず、テストの2回目と3回目で、年齢、および年齢と飼育システムとの関連が見られた。
| 試行回数 | 年齢30週 | 年齢64週 | 放し飼い | ケージ | p値 (年齢) | p値 (飼育システム) | p値 (年齢×飼育システム) |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 1回目 | 0.42±0.96 | 0.63±1.17 | 0.53±1.09 | 0.51±1.05 | 0.19 | 0.92 | 0.480 |
| 2回目 | 0.89±1.30 | 1.32±1.36 | 1.27±1.36 | 0.94±1.32 | 0.028 | 0.09 | 0.003 |
| 3回目 | 1.09±1.32 | 0.48±1.06 | 0.65±1.18 | 0.92±1.27 | < 0.001 | 0.14 | 0.010 |
結果④ 羽毛スコア、脚の健康状態の評価
羽毛、脚の健康状態(FPD:趾蹠皮膚炎スコア)については、飼育システムが大きな影響を与えていた。エンリッチドケージシステムで飼育された採卵鶏は、すべての身体の部位において、羽毛状態、脚の状態が悪かった。年齢による羽毛の状態への違いも見られ、特に背中、総排出腔における羽毛に影響が現れた。
品種による違いは見られなかった。

羽毛スコアについては、スコア1=被覆率25%未満、スコア2=被覆率25~50%、スコア3=50~75%、スコア4=被覆率75%超、スコア5=被覆率100%、
趾蹠皮膚炎については、スコア0=病変なし、もしくはわずかな変色、治癒した病変、スコア1=軽度の病変、スコア2=重度の病変、を表す。
結論
論文の筆者たちは、LB系の品種はエンリッチドケージの飼育方法、他の品種は放し飼いの方法により適用すると予想したが、結果は、どの品種も各飼育システムに対し、似たような行動反応を示していた。しかし、鶏の行動を完全に理解するためには、頻度や特定の品種に焦点を当てた、個々の行動に対する詳細な研究が不可欠だ、とも述べている。
LBの品種において、「走る」行動の頻度が低いことは、特定の品種では、特定の行動を行う傾向が低いことを示唆しており、「成長の遅い動物は運動が多く、身体を生産するためのエネルギーは少なくなる(※LBは運動が少なく、成長が早い)」という「エネルギー保存」の考えを支持するものとなっている。
身体を生産する率の高い種の選抜は、行動の改変につながっている可能性がある。
採食行動において、エンリッチドケージの飼育システム下の鶏は、採餌行動により多く時間を費やしており、放し飼いシステムの鶏は、草を食べたり物をつつく行動の頻度が高かった。放し飼いシステムのほうが、より自然に近い採食行動となっている。
動物が本来の自然な行動をどれだけとれるかは、アニマルウェルフェア(動物福祉)の根幹をなし、それによって動物の身体的、精神的健康を向上させることにも繋がるので、鶏をケージに閉じ込めず、鶏に放し飼いシステムを提供することは、福祉を向上させる上で重要である。
飼育システムは、休息行動、特に「しゃがむ」行動に大きな影響を与えており、エンリッチドケージの飼育システム下では、行動に制約があるため、しゃがむ行動を多く示す傾向が見られた。このことは、趾蹠皮膚炎の増加や、胸部などの羽毛の状態悪化に繋がっている可能性がある。
エンリッチドケージの飼育システム下では、「つっつき」や「喧嘩」といった社会行動が高頻度で発生したが、これらは、まず、刺激の少なさと限られた空間が、閉じ込められた動物の攻撃性増加に寄与している可能性がある。攻撃的な行動によって、特に首、尾、羽などの羽毛の状態の悪化に影響を与えている可能性がある。ケージシステムは飼育密度が高く、社会的にぶつかることが増え、資源をめぐる争いが激化する可能性がある。
また、エンリッチドケージでは、ケージの床材自体が趾蹠皮膚炎の要因となっている可能性がある。
品種による違いについて、LBの種は、「他者への羽繕い」「喧嘩」といった社会的行動への関与が少ないことが分かった。これは、採卵鶏の社会的行動の傾向に、遺伝的な影響がある可能性を示唆している。
研究から、放し飼いの飼育システムがより鶏にとって必要な事項を満たす結果となった。
論文では、農家、養鶏業界、そして消費者が動物福祉を優先することは、倫理的な実践と代替的な飼育システムを提唱し、鶏の人道的な扱いと業界の長期的な持続可能性を確保するために不可欠である、と述べて締めている。
原文タイトル:Effects of housing systems on behaviour and welfare of autochthonous laying hens and a commercial hybrid
論文著者:Edoardo Fiorilla, Laura Ozella, Federico Sirri, Marco Zampiga, Raffaela Piscitelli, Martina Tarantola, Patrizia Ponzio, Cecilia Mugnai
公開日: 2024/04/06

