論文概要
英国で飼育される豚の大多数は、慣行的な断尾が法律で禁止されているにもかかわらず、尾を切断されている。一方、欧州の4か国は、変革への道筋を示している。 英国では毎年1,000万頭を超える飼育豚が屠畜される。その大多数は、集約的な屋内飼育システムで育てられている。こうしたシステムで一般的に行われているのが断尾だ。これは、ほかの豚に尾をかまれて負傷するのを減らすため、尾の一部を切断する処置である。尾かじりは異常行動であり、本来、土を掘り返したり、餌を探したり、周囲を探索したりして過ごす野生の豚には見られない。飼育環境によって複雑な行動上の欲求を満たせなくなると、飼育豚にこの行動が現れる。尾かじりの発生率の高さに関連する要因には、わらの不足、刺激に乏しい環境、過密な檻、餌をめぐる競争、すのこ床、栄養不良、温度によるストレスがある。
断尾は通常、生後1週間以内の子豚に鎮痛処置なしで行われる。尾の切断端の過敏性や慢性的な痛みなど、直後にも長期的にも害をもたらす。重要なのは、この処置が、本来対処しようとしている問題さえ解決していないことだ。根本にある環境条件が変わらないため、断尾された豚の集団でも尾かじりは起こり続ける。研究では、その発生率は58~72.5%と報告されている。
動物法財団(The Animal Law Foundation)が公表した本報告書は、慣行的な断尾が法律で禁止されているにもかかわらず、英国で広く行われ続けている理由と、この慣行からの脱却に成功した国々から学べる点を調査している。著者らは、英国、フィンランド、スウェーデン、ノルウェー、スイスの5つの法域を対象に、法律と政策の比較分析を行った。報告書は各国について、関連法令、法執行の実態、飼育施設の要件、尾かじりや尾の損傷率に関する入手可能なデータを検討している。一次データを収集するのではなく、法令、検査記録、農家への調査、専門家の証言などの二次資料を用いている。
英国法では、断尾は身体の一部を切除する行為に分類されており、飼育環境や管理方法の改善を試みても尾かじりを止められなかった場合の最終手段を除き、禁止されている。イングランドとスコットランドでは、断尾を行う前に獣医師の許可が必要だ。
しかし、複数の情報源のデータは、法律が組織的に無視されていることを示唆している。商業的に飼育される豚の95%を対象とした動物福祉監視プログラムでは、2018~2020年に72%の豚が断尾されていた。2016~2021年に農場で行われた潜入調査では、訪問先の85%でこの慣行が確認された。欧州24か国を対象とした専門家調査では、英国の豚の平均84%が断尾されていると推定された。これらの数値は長年の傾向を反映している。と畜場での調査によれば、断尾率は1972年の25%から1999年には81%へと上昇した。2024年に検査を受けた農場はわずか2.2%であり、行動を変えるには法執行の頻度があまりにも低い。

獣医師の役割にも懸念がある。断尾には獣医師の許可が必要であることから、処置の実施率が高いという事実は、動物福祉の改善を先に試みたという十分な証拠がないまま、許可が日常的に出されていることを示唆する。同じ欧州24か国の専門家調査で、研究者らは、農家の経済的制約と市場からの圧力(18%)、農家の管理方法・知識・変化への抵抗(20%)が、獣医師が断尾を行わないよう助言するのを妨げる、特によく挙げられる障壁に含まれていることを明らかにした。これは、商取引上の関係が、動物福祉に対する専門職としての責務を損なっていることを示唆している。
フィンランド、スウェーデン、ノルウェー、スイスは、慣行的な断尾を行わなくても商業的な養豚が成り立つことを示している。各国の飼育基準は多くの点で欧州連合の最低基準を上回る。例えば、より広い飼育スペースの確保、全面すのこ床の制限または禁止、より充実した環境エンリッチメントの要件などだ。
フィンランド フィンランドはすべての断尾を禁止している。政府は、豚の飼育環境を改善する生産者を補助金で支援している。その一つが「尾を切断しない飼育への補助金」であり、と畜場に到着した豚のうち、尾に傷がある豚が5%未満の場合に支給される。尾かじりによる重度の尾の損傷が生じるのは、フィンランドの豚のわずか0.9~1%だ。フィンランドの生産者には、英国の生産者との文化的な違いも見られる。調査では、大多数が断尾を残酷な行為と捉えるなどして、仮に合法であっても行わないと回答している。
スウェーデン スウェーデンでは1988年から断尾が禁止されている。公式の屠畜場記録によれば、尾かじりの発生率は1~3%であり、軽微な問題と見なされている。スウェーデンの農家は、ほぼすべてがわらを与えている。注目すべきことに、スウェーデン政府は生産者、小売業者、銀行と協力し、スウェーデン産豚肉の販促と農家の経済状況の強化に取り組んだ。この事例は、規制当局と業界が協力して市場を支えれば、高い動物福祉基準と商業的な採算性は必ずしも対立しないことを示している。
ノルウェー ノルウェーでは、いかなる断尾にも獣医師の関与、麻酔、長期にわたる疼痛管理を義務づける厳格な処置要件によって、この慣行は事実上完全に終わった。2018年の専門家調査では、断尾されたノルウェーの豚は0%だった。屠畜時の尾かじりの発生率に関する政府記録と、独立した農場調査の結果には若干の食い違いがある(政府記録の2%に対し7~10%)。それでも、ノルウェーの農家は広く、尾かじりは大きな問題ではなく、高い動物福祉基準が競争上の優位性をもたらし、業界に対する社会の信頼を支えていると報告している。
スイス
スイスは2008年から断尾を禁止し、法的に動物が本来持つ尊厳を侵害する行為と位置づけている。専門家調査では、禁止にもかかわらず、スイスの豚の約2.5%が依然として断尾されていることが確認された。一方、急性の尾の損傷が生じるのは豚のわずか1.3%で、フィンランドの結果と整合している。スイス政府は、動物が定期的に屋外に出られる機会を与える農家への支払いと、動物福祉により配慮した飼育施設を使用する農家への支払いという、2種類の補助金で高福祉型の畜産を支援している。報告書によれば、豚、鶏、牛を飼育するスイスの農家の大多数が、動物福祉を条件とするこれらの補助金の恩恵を受けている。これは、経済的支援を動物福祉の成果に直接結びつける仕組みだ。 国ごとの動物福祉データを比較する際には、慎重な解釈が必要だ。尾の損傷の記録方法や評価基準は法域によって異なり、直接比較できるとは限らないためである。また、国別の調査データの一部には、標本数が少ないものもある。しかし、これらの留意点は、慣行的な断尾を行わない商業的な養豚は可能であり、実現できるという報告書の中心的な主張を損なうものではない。
ここで集められた証拠は、英国の慣行的な断尾への依存が、動物福祉上の必要性からではなく、法執行の不備と農場管理の構造的な問題を反映していることを示唆している。フィンランド、スウェーデン、ノルウェー、スイスの豚は、日常的に尾を切除されることなく暮らしている。これらの飼育システムでは、尾かじりは一般に発生率が低く、管理可能な問題である。違いは豚そのものではなく、飼育環境にある。 動物保護のために活動する人々にとって、この報告書は重要な機会を示している。英国で慣行的な断尾を終わらせるために、新たな立法はまったく必要ないかもしれない。既存の禁止規定は明確だ。基本的な飼育施設の基準は、すでにすべての農場に法律で義務づけられている。そのため、断尾を行う前に環境を改善するという要件は、単に最低基準を満たすのではなく、それを上回る改善を意味するはずである。必要なのは法執行だ。具体的には、農場検査の頻度を高めること、違反が見つかった場合に警告を繰り返すのではなく一貫して措置を講じること、そして実質的な動物福祉の改善が先に試みられた証拠もなく断尾を許可する獣医師の責任を問うことである。この慣行の廃止を目指す人々は、法改正の必要性を訴えるのではなく、既存の法律を適用するよう求めることができる。
※本記事はこの記事の最下部にある論文のFaunalyticsのリサーチャーによる要約を、同団体の許可を得て翻訳したものです。
原文タイトル:A pig’s tail: How Europe is moving beyond routine tail docking.
論文著者:The Animal Law Foundation
公開日: 2026/04/01
論文URL:https://animallawfoundation.org/s/A-pigs-tail-Report-mgn5.pdf

