論文概要
(要約)この論文では、二酸化炭素排出の主因である牛など赤身肉の生産・消費を減らすことと、それに対する右派的な政治イデオロギーを持つ人の態度との関連を、アメリカの成人456人へのアンケートを通じて調査している。
過去の研究から、畜産、特に赤身肉の生産によるGHG(温室効果ガス)排出量は、自動車、トラック(貨物車)、飛行機の排出量を合計した量に匹敵することが分かっている。GHG排出量削減の為には赤身肉生産の削減に重点を置く必要があり、別の研究では研究者たちは、赤身肉の摂取をやめるか、フレキシタリアン(柔軟な菜食主義)の食生活に変え、平均として牛肉を75%、豚肉を90%削減することを推奨している。
しかし肉の消費は個人的・社会的な意味合いがあり、削減は容易ではない。
気候変動の文脈において、個人の政治イデオロギーが肉の消費行動の変化にどう影響するかはまだ解明されていることは少なく、この論文の著者たちは、アンケートを通じてその影響を追っている。
この論文では、社会イデオロギーを
- 右派的権威主義(RWA:Right-Wing Authoritarianism)
→社会慣習に従順であり、正当と見なす権威に無条件に従い、規範違反者への攻撃的態度が特徴。伝統や既存の秩序を重視し、社会改革に否定的である傾向がある - 社会的支配志向(SDO:Social Dominance Orientation)
→社会における階層構造を支持し、地位の高い集団が優位に立つことを望む傾向、平等よりも不平等を好む傾向がある
の二次元モデルを採用して調査を行っている。
RWAは社会文化的側面、SDOは経済的・階層的側面を表しており、両社を組み合わせることで、個人のイデオロギーをより包括的に理解する。
調査は、アメリカの成人456人に対して行われ、平均年齢35.66歳、女性52.3%、また、調査の参加者はリベラル:48.8%/保守:30.3%/その他:20.9%と回答している。
調査内容などの詳細が論文に掲載されており、結果として、RWA(右派的権威主義)およびSDO(社会的支配志向)が高い人ほど赤身肉に対して肯定的な認識を示し、その削減を反対し、環境団体・消費者保護団体・大学などへの不信感を示す傾向があった。そして、農業が環境に悪影響を与えるという認識、環境保護のため赤身肉の値上げを容認する意欲、赤身肉の消費を減らす意欲は低い傾向があった。
RWA/SDOの傾向の違いとして、
RWAの高い人では、特に
- 赤身肉の消費に肯定的な認識
- 赤身肉と気候変動の関連性に懐疑的
- 赤身肉の消費削減に否定的
な傾向があり、
SDOの高い人では、特に
- 赤身肉に多く支払う意欲が低い(値上げに肯定的でない)
傾向が見られた。
論文の研究内では、年齢、性別、宗教、民族、収入、学歴、都市居住か/そうでないかといった属性ごとで、今回のRWA・SDOの傾向は変わるのか分析も行っているが、それらの属性を変えてみても同じ結果となった、と述べている。(ただし、対象者は白人のアメリカ人が多かった、とも述べている)
論文では、今回否定的とする結果の出た層に対しても赤身肉の消費を減らす、効果的になる可能性のある方法が幾つか挙げられている。
- 一般的な削減の場合:社会的規範を強調するメッセージを送る
(多くの人が既に肉の量を減らしています、など) - 赤身肉に多く支払うといった場合:その肉の希少性や特別感を強調する
- 赤身肉の代替品からや赤身肉を減らした場合でも、健康的・社会的に満たされることはできることを強調する
また、
- 環境問題を「純粋性(purity)」という道徳的価値観に基づいて訴えることで、保守的な人々の環境意識をリベラル派と同程度に高めることができる
とする研究もある。
最後に、ドイツでは与野党の政治家が協力して赤身肉への課税を提案している、イギリスでは気候変動委員会が赤身肉の消費を削減すべき重要な分野として特定している、などの例を挙げ、気候危機に対処するためには、生活様式や消費行動の変化を通じて、国民や政治家の幅広い支持が必要になることは明らかだ、と述べている。
原文タイトル:The politics of red meat consumption and climate change
論文著者:Becky L Choma, Raluca A Briazu, Vashisht Asrani, Ana Cojocariu and Yaniv Hanoch
公開日: 2024/01/17

