論文概要
西欧では、菜食主義はよく個人的なアイデンティティや政治的主張として捉えられるのに対し、中国における菜食主義は、健康的で、手頃で、精神的に滋養となる食を追求する実践的な食生活として動機づけられている。
動物性食品を含まない食事、つまりベジタリアンやヴィーガンの食生活は、世界中でますます人気を高めている。この広がりの背景には、人々は、肉を食べるよりも、より健康的で、持続可能で、動物に優しい食の選択肢を求めていることがある。菜食主義に関する研究の多くは、主にアメリカやヨーロッパなど西欧の文脈に焦点を当ててきた。それらの地域では、肉は容易に手に入り、便利で、広く消費されている。そのため、菜食主義は社会的な規範から外れる行動と見なされ、主に気候変動や動物福祉といった問題への関心によって動機づけられている。しかし、西欧諸国の研究結果が他国の文化的背景にそのまま当てはまるとは限らない。
歴史的に見ると、アジアの多くの地域では主に植物性の食事に依存してきた。たとえば中国では、長い歴史の中で肉が高価で入手しにくかったため、一般の人々の間で菜食が一般的だった。しかし1978年以降、中国が経済改革を進めて国際貿易に参加すると、肉はより安価で手に入りやすく、一般的な食品となった。それでもなお、仏教・儒教・道教・伝統的な中国医学から来る文化的な信条によって、菜食を「心・身体・精神にとって肉よりも清らかで健康的なもの」として推奨されている。
この研究では、中国の人気ソーシャルメディア・プラットフォームである微博(Weibo)における菜食主義に関する議論を分析している。研究者らは、コンピューターによるテキスト分析を用いて、2019年から2020年に公開されている「菜食主義」に言及するすべての投稿の中から、議論のトピックの抽出を行った。その結果、199,648件の議論、124,015人のユーザーによる投稿が分析対象となった。
西欧諸国と同様に、中国でも女性のほうが男性よりも菜食主義について議論することに関心を示す傾向が見られた。しかし、西欧とは異なり、中国では若い世代よりも年配の世代のほうが菜食主義への関心が著しく高いことが分かった。この傾向は、上海における菜食主義者の平均年齢が65歳であるという過去の研究とも一致している。
| 統計 | 微博(Weibo)で菜食主義の議論に加わったユーザの割合 | 微博(Weibo)ユーザー全体における割合 |
| 女性 | 72% | 55% |
| 男性 | 28% | 45% |
| 1970年代以前生まれ | 11% | 4% |
| 1980年代、1990年代生まれ | 75% | 66% |
| 2000年代以降生まれ | 15% | 30% |
研究者らは、旧暦の毎月1日と15日に菜食主義に関する投稿が増加する傾向について挙げている。これは仏教の慣習と一致しており、こうした宗教的実践がより多くの人々に菜食への関心を促している可能性がある。この現象は、仏教が中国の食習慣に与える影響を反映していると考えられる。
最も一般的な話題(投稿の19%)は、日常的な菜食の体験についてだった。これらの議論でよく使われていた言葉には「家で」「故郷」「母」「友人」「子ども」などが含まれていた。また、ベジタリアン火鍋(菜食の火鍋)についての言及も見られた。これらの結果は、家族や友人と一緒に菜食を楽しむことが文化的に“普通のこと”として受け入れられていることを示している。
2番目に多かった話題(投稿の15%)は願いや祈りに関するもので、「願う」「希望」「祈り」「幸運」などの語が頻出していた。これらの話題は、菜食主義を精神性や個人的な目標の達成と結びつける文化的表現を反映している。こうした表現は、中国の人気テレビドラマ『甄嬛伝(Legend of Concubine Zhen Huan)』の主人公が加護を求めて菜食を実践する描写などを通じて、若い世代の間でもさらに広まっている。
3番目に多かった話題(投稿の14%)は倫理的な菜食主義で、「動物」「生命」「地球」「自然」といった単語が頻出していた。また、仁愛や殺生を避けるといった中国の伝統的な考え、そして「エネルギー」「マインドフルネス」といった精神的な単語も見られた。これらの傾向は、菜食主義が自然との調和や精神的なウェルビーイングに関する信条と結びついていることを示している。
その他の話題としては、レストラン、食事や軽食、総合的な健康、現代栄養学、レシピ、仏教に関する議論があった。研究者らは、「レシピ」の話題では豆腐やキノコなどの伝統的な中国の菜食食材が多く登場する一方で、「食事や軽食」の話題では現代的で加工された植物性代替品への言及が多いことを指摘している。さらに、総合的な健康の話題では、漢方への言及が見られ、陰陽のバランス、デトックス(解毒)、食による治癒などが中心的テーマとなっていた。
分析ではまた、世代による話題の傾向の違いも明らかになり、年齢によって菜食への動機や実践が異なることが示唆された。1970年代以前に生まれたユーザーは、仏教的菜食、倫理的菜食、総合的健康、レシピに関心を示す傾向があり、一方、1990年代・2000年代生まれのユーザーは、日常的な菜食体験、願いや祈り、食事や軽食について語る傾向が見られた。
論文では、中国における菜食の実践が、西欧と比べて政治的・イデオロギー的というよりも、日常的で実用的なものとして捉えられていると結論づけている。研究者らは、菜食主義に関する人気のあるソーシャルメディア投稿の多くが、著名人の発信や非営利団体による啓発活動ではなく、一般の人々が自身の体験を語る内容であったことを指摘している。
ただし、Weiboの利用者が平均的な中国の人々よりも若く、都市部在住で、教育水準が高い傾向にあることを念頭に置く必要がある。また、オンライン上の議論は必ずしもオフラインでの会話を完全に反映するものではない。それでも、重要なメッセージは変わらない:西欧のヴィーガンやベジタリアンの活動は、中国固有の文化的・歴史的文脈にそのまま当てはまるとは限らない。例えばこの論文において、セレブや非営利団体による菜食推進のメッセージは、中国において必ずしも好意的に受け止められない可能性があると警告している。また、中国の経済改革期に国際貿易へと門戸を開いたことが、肉の消費を近代化や繁栄と結びつける新しい文化的語りを生み出したとも指摘している。このように語られることについては、無視することはできない。
動物擁護活動家は、この研究から中国における菜食主義だけでなく、異文化間の活動全体に関しても重要な教訓を得ることができる。
- 中国では、菜食を日常生活の中で実践的に結びつける草の根キャンペーンが効果的に機能する可能性がある。
- 精神性や総合的な健康に関する文化的に親和性の高いメッセージを取り入れると、高齢世代に最も響くと考えられる。
- 若い世代は、現代的な植物性代替品によりオープンであり、人気テレビドラマから触発されたメッセージにより強く反応する傾向がある。
この研究は、活動家が他の文化に対して慎重に接するべきであるという重要な教訓を示している。異文化間で動物擁護活動を行う人々は、その文化を考慮せず、文化的に不適切なアプローチをとるのではなく、地域社会から学び、協働することで活動の効果を高めることができる。
※本記事はこの記事の最下部にある論文のFaunalyticsのリサーチャーによる要約を、同団体の許可を得て翻訳したものです。
原文タイトル:What we talk about when we talk about vegetarian diets: Insights into vegetarian practices in China
論文著者:Zheng Chen, Jiahui Lin, Guojun Zeng
公開日: 2025/04/05

