識者コメント
客観的立ち位置を把握できるようにする取組
伊藤武志教授
大阪大学 教授 博士(経営学) 社会ソリューションイニシアティブ (SSI)
現代社会においては、すべての人間が幸せにいのちをまっとうすることだけでなく、アニマルウェルフェア、人間だけはない生物のいのちを慈しみ、生物に幸せに生をまっとうしてもらうことが、私たちに求められてきています。
特に欧州においては、2009年発効のリスボン条約によって整備され、欧州連合(EU)を支える法的な条約文書である「欧州連合の機能に関する条約(TFEU:Treaty on the Functioning of the European Union)」の第13条に“animals are sentient beings, pay full regard to the welfare requirements of animals”とあり、動物は感受性を有する存在(sentient beings)というのが、法的な義務として考慮すべきことともなっています。欧州に輸出や進出する企業はもちろんこれに対応しなければなりませんが、日本や他の地域においても、今後、法的な規制の強まり、投資家のESG重視、そしてエシカルな購買行動の広がりが増していくことが予測されます。
私がリーダーを務めるSSI基幹プロジェクトは、認定NPO法人アニマルライツセンター(以下、ARCJ)を含む市民団体により毎年数社から10社程度の企業のESGを評価する「企業のエシカル通信簿」調査と連携してきました。今回ARCJでは、この調査と同様にBBFAW(Business Benchmark on Farm Animal Welfare)による世界的な食品企業格付けに範を取りつつ、アニマルウェルフェアの分野で、対象企業や調査項目を増やした企業評価「FARMWISE Impact 2026」を開始されました。
今回の調査に先立つ「企業のエシカル通信簿」調査は、2016年度から10年間9回(2020年度除き毎年実施)に渡って実施されてきましたが、この調査のうちのARCJが担当してきたアニマルウェルフェア分野では、2016年度など調査の初期段階には、一部のアパレルや化粧品分野の企業を除き、食品メーカーも含めて方針や取組がほぼありませんでした。しかし2022年度の食品メーカー10社の調査では、ほとんどの企業のレベルが向上してきています。とはいえ、世界で150社、日本で小売や食品メーカー数社を対象としたBBFAWの調査では日本の企業のレベルはいまだ相対的に高くはありません。
今回ARCJが開始した「FARMWISE Impact 2026」は、現代の企業活動のアニマルウェルフェア評価に定評あるBBFAWの基準を日本向けにカスタマイズしたうえで、日本のメーカーや小売業の企業の開示情報を網羅的に評価し、客観的な立ち位置をそれぞれの企業や一般の人々が把握できるようにする取組です。
今回の調査結果のような企業開示情報に基づく評価情報は、企業がステークホルダーや社会の期待に応えているかどうかを相対的に示すものであり、企業がアニマルウェルフェアに代表されるようないのちを慈しむ動きを率先して行っているかと、企業がその行動について周りが知ることができるように開示しているかどうかを知る糸口になります。
わたしたちは、この調査結果を企業の批判のみに使うのではなく、購買や投資、労働などを通して、より優れた企業を選択することによってその着実なレベル向上を応援することができます。アニマルウェルフェア分野において優れた企業が選ばれることでそういった企業が増える結果となり、業界そして社会におけるレベルも向上していきます。そして今後、購買者や投資家、労働者が、今回のような取組からの情報により企業や業界の行動を支持する動きが強まり、それによって社会経済が持続的なものになるという好循環が生まれることを大いに期待しています。

