アニマルライツセンターの調査員が問題の直売所に着くと、夕方の買い物客で賑わう店の隅で、金魚、メダカ、カニなどが生体として販売されていました。表示を見ると、おそらく地元の人が持ち込んだものです。薄い体の金魚は、排泄物だらけの緑色の水に体を浮かべて、ビニール袋で売られていました。懸命に目をこらして、頭をいつまでも、見えない壁に打ち付けています。透明な壁に阻まれて、自分がなぜそこから逃れられないのかわからない様子でした。いつから食べていないか、思い出せないほどお腹が空いても、口に入ってくるのは自分の排泄物だけ。夜になれば、一斉に灯りが消えて、だんだんと暑くなってきます。水はぬるくなり、目には見えないが細菌が金魚の体を侵食します。暗闇でバクテリアに体を喰われながら、金魚は自分の体が溶けていく音を聞いていました。その音が止むとき、金魚の悪夢は終わりました。朝になって出勤してきた店員に、体が溶け出した水ごと、金魚はゴミ箱に投げ込まれました。惣菜を詰めるプラカップに入れられたカニは、体の割には大きなハサミを振り上げて、見えない壁を断ち切ろうとしていました。彼の自慢はこの大きなハサミ。なんだって切れる大きなハサミです。実際、何かのきっかけで、カップの蓋が開き、彼は逃げ出すことができるかもしれません。しかしカニは知らないのでした。プラカップに空気穴はなく、1センチもないわずかな切れ目の隙間から、呼吸をしていること。ハサミを振り上げても振り上げても、断ち切ることのできない魔の天井に、彼のプライドは打ち震えて、カニは泡を吹きました。ブクブクと泡を吹きながらも、カニはハサミを振るいました。突然、カニの体に鋭い痛みが走り、自慢のハサミは、くず折れてしまいました。あの生き生きした大きなハサミは、落ちて鈍い色に変わり、ゴロリとプラスチックの底に転がりました。カニは悲しかった。悲しかったけれど諦めませんでした。ハサミを振り上げて、それでも彼は、見えない天井と戦い続けました。だってカニは怒っているのです。なぜ自分がここから出られないのか。朝になり、出勤してきた店員は、自分が吹いた泡に埋もれた、ハサミのないカニを、カップから取り出して捨てました。ハサミのないカニを買う客はいないし、もう死んだものと思ったから。ゴミ箱のなかで、カニは死んではいませんでした。外に出られたことに安堵したらとても眠くなり、いつの間にか涼やかな水辺にいるカニは、夢の果ての川を渡っていきました。あなたならどうでしょう。見えない壁に阻まれて、逃げられない悪夢が、いつまでも終わらないとしたら。足掻いてもあがいても透明な壁が体にまとわりつき、ぬるくて汚い世界から逃れられなかったら。人間のあなたなら、大汗をかき、荒い呼吸で、悪夢から目覚めることができる。しかし小さな生き物たちの悪夢は、死ぬまで終わることはないのです。今回のケースは、アニマルライツセンターの支援者から、目に余る鑑賞魚の生体販売をする農産物直売所があると通報を受け、実態を調査しました。その結果、問題を把握したので即刻、当該施設に改善を求め、すでに施設より改善に努めたいとの回答を受け取りました。調査した販売実態をもとに、この残酷な物語は書かれました。生体販売はやめるべきですが、廃止が実現するまでの間は、市民のみなさんの通報があれば、現場に出向き、アニマルウェルフェアに基づいた改善方法を要望します。知らないだけ、気がつかないだけで、話せばわかる業者はいます。夏休みは小動物の生体販売が増える時期なので、市民の監視を強める期間でもあります。 クリックして X で共有 (新しいウィンドウで開きます) X Facebook で共有するにはクリックしてください (新しいウィンドウで開きます) Facebook クリックして X で共有 (新しいウィンドウで開きます) X Share This Previous ArticleOECD-FAO農業見通し:動物性タンパク質、まだ増える予測か… No Newer Articles 2025/07/30