2022年末、ボルソナロ政権がようやく終わり、環境政策を大きく打ち出したルラ政権が誕生したブラジル。アニマルライツセンターではルラ政権が動物にとっても良いのか懐疑的であった。8ヶ月が過ぎ、その本質が少し見えてきたようだ。結論としては、ルラ政権になって森林破壊のスピードは多少落ちており先住民の権利への配慮は大いに見られるが、ブラジルの大部分の森林を破壊してきた畜産、飼料生産については甘い立場を取ることがわかってきた。炭素排出制限の新規制から農業分野を抜かす見込みブラジルは、今月にも産業排出量の規制を目的としたキャップアンドトレード炭素市場を導入する法案を採決する予定だという。企業の炭素排出量に制限をかけるものであり*2、同時に温室効果ガスの排出量取引システムを構築して炭素排出の義務を企業が果たすことができるようにするものだ。しかし、Mongabeyによると、この規制から農業分野が省かれているという。ブラジルの森林は農業部門=牧畜と飼料生産によって広い面積が破壊されてきた。今もアマゾナス州やマトピバを中心に進行中である。その農業部門を抜いたまま法律が成立してしまうのだろうか。政権が交代して、先住民族の問題の解決が前進し、また違法な森林伐採も削減されている。これまでなかなか取り締まられなかった違法な森林伐採を大規模に行ってきた人物の捜査が始まったりもしている。そのため環境保護、自然保護団体からの評価は高い。しかし、ルラ政権は動物のことは頭にはない。世界中の工場畜産を支えるための飼料生産を減らすつもりはなさそうなのだ。農薬承認スピード、ボルソナロと一緒大規模プランテーションで行われる飼料生産には、大量の農薬と窒素化学肥料と遺伝子組み換え技術が欠かせない。農薬は人の命も奪うし、食の安全性も奪い、生態系も失わせる。なんといっても、アマゾンやセラードなどの大自然のど真ん中に大量の農薬と窒素化学肥料がばらまかれるのだ。ボルソナロ政権では新規農薬の承認数が一気に跳ね上がっていたが、ルラ政権でもその勢いは全く衰えなかったことがわかった*3。ブラジル農業省は、7月中旬までに231種類の新機能役を承認し、この速さはボルソナロ政権と同じであるという。承認された231の農薬の内、17種類は新たな有効成分を含んでいる。この勢いで承認が続けば、ボルソナロ政権と同様、年間400種類を超えるだろう。以前書いた記事から引用すると、「ルラ次期大統領は、前政権時代の就任直後の2003年に遺伝子組み換え大豆を巡る論争を最悪な形で終わらせ、ラウンドアップ ・レディ・グリホサート耐性(RR)の大豆*を認可しその後もGMO大豆の流通を緩和させてきたという過去を持つ。強力な除草剤に耐性を持った大豆、そして遺伝子組み換え大豆が広まっていったことにより、この後ブラジルは大豆生産量を一気に伸ばし2020年に世界一位になった。」今回の政権でも、良いことを推進する一方で、農業分野は取り残されるのかもしれない。懸念のアマゾン縦断高速道路、作業部会が立ち上がったところ2023年8月3日、アマゾナス州とロンドニア州を結ぶ舗装高速道路BR319の再建について議論するための作業部会を設置することを決定したとラジオ放送中に明かした*4。ルラ大統領は環境への影響の調査が必要としながらももし建設する場合には最高水準のものにするのだと述べており、建設をしないという意図は見せていない。舗装された長距離道路ができることは、間違いなく森林破壊を助長する。これまでも、道路がまずできて、そこから森林が開発されていった。森林破壊をやめるのだとする現政権が、この高速道路の建設を進めるのだとすれば、森林破壊ゼロは遠い。まだ結論は出ていないため、国際社会がブラジルの貴重な森林にどうお金を払うのか(つまりもっと破壊を推進する産業(飼料など)にお金を払うのか、それとも破壊するなら資金を引き上げたり又は保全に払うのか)に左右されるだろう。今後もブラジルの動向は重視する必要がある。なぜなら日本の畜産業の中で苦しむ動物たちの餌がここからやってくるからだ。*1https://www.reuters.com/sustainability/society-equity/brazil-govt-eyes-emissions-cap-indigenous-protections-new-carbon-market-2023-08-17/*2https://legis.senado.leg.br/sdleg-getter/documento?dm=9436499&ts=1692967169976&rendition=stored-leg-signed-pdf&disposition=inline&_gl=11kw8kw_gaMTkwNDUxMTMwNi4xNjc3MTE0MDUz_ga_CW3ZH25XMK*MTY5Mjk4MzE3NS4yMi4xLjE2OTI5ODMyODcuMC4wLjA.*3 https://www1.folha.uol.com.br/mercado/2023/08/liberacao-de-agrotoxico-no-governo-lula-segue-ritmo-da-gestao-bolsonaro.shtml*4 https://www.poder360.com.br/governo/lula-anuncia-grupo-de-trabalho-para-discutir-a-br-319/クリックして Twitter で共有 (新しいウィンドウで開きます)Facebook で共有するにはクリックしてください (新しいウィンドウで開きます)クリックして X で共有 (新しいウィンドウで開きます)Share This Previous Articleネズミとの穏やかな共存を考える Next Article8月のアクショングループ活動報告 2023/09/12