米国農務省(USDA)は1996年7月2日、犬の繋ぎ飼いについて、連邦官報の中で次の声明を発表しました。動物福祉法を実施した私たちの経験から、繋ぎによる犬の継続的な監禁は非人道的であると結論づけました。 繋ぎは犬の動きを著しく制限します。 また、犬の小屋やその他の物体の周りに絡まったり引っ掛かったりして、犬の動きをさらに制限し、怪我を引き起こす可能性があります。2018年現在、日本ではまだまだ多くの犬が屋外で繋がれたまま飼育されています。一日数十分の散歩に連れて行ってもらえたとしても、それ以外の時間一日中、365日、死ぬまでずっと屋外につながれたまま、「家族」の団らんに屋外でひとりぼっちで耳を傾けて、犬は毎日何を思っているのでしょうか?繋ぎ飼いされている犬にとって、世界はどう見えているのでしょうか? 繋ぎ飼いされている犬(日本)極端な行動制限短い紐でつながれて、半径1mほどの世界でご飯を食べるのも寝るのも同じ場所、走ることも行きたい場所に移動することもできません。一日数十分の散歩の時間以外、日がな一日何ヶ月も何年もつながれた犬は、心理的な被害を受けています。 接近してくる見知らぬ人や動物との距離を広げることができないため、繋がれた犬は否応なしに戦うしかない状況に常におかれています。繋がれた犬は不安で攻撃的になります。繋がれた犬は繋がれていない犬に比べて2.8倍、咬む可能性が高いという報告もあります*2。アメリカ獣医学科医(AVMA)は「攻撃的な行動の原因になるため、犬を繋ぎ飼いしないでください」と述べています*5。たった一匹で長期にわたり孤独な時間を過ごさねばならない犬は、人や他の動物たちとの関わりの中で生き生きと生活できる社会的な生き物です。野生下では、イヌとオオカミは家族もしくは他のイヌ科の仲間と共に、食べ、眠り、狩りをします。犬は仲間と共に生きることが遺伝子的に決定されている生き物です。飼育下のイヌの場合は飼い主であるヒトが家族であり仲間になりますが、たった一匹で数時間、数日、数ヶ月、さらには数年間、繋がれ続けて孤独な犬は、心理的に非常に大きな被害を受けます。イヌにとって人が必要なのには別の理由もあります。犬と暮らしたことがある人なら分かると思いますが、犬は人の気持ちに敏感です。「お手」「お座り」「待て」など誰にでも犬に教えることができます。人が散歩に連れ出す様子を見せると嬉しそうに尻尾を振ります。このような特徴は犬特有です。これはイヌが人と一緒に暮らせるように長い年月をかけて家畜化(人為的選択)されてきた結果です。また、ほかの多くの家畜と同様、イヌには「幼形進化」*3という特徴があります。犬は遺伝的に見れば、子どものオオカミだ。進化する過程で幼形進化という段階を経た。子犬の成長は、オオカミの子の発達より早く止まる。犬は、いわば成長が停止したオオカミ。(中略)犬は成長しきっていないオオカミだという考えからすると、飼い犬をわが子のように扱う人は、結局、正しいのかもしれない。-「動物が幸せを感じるとき」テンプル・グランディン 2011年この「幼形進化」は幼体の従順な行動の特質を利用するために行われた品種改変の結果だと考えられています。犬がいつまでも子供で「親」を必要としているということは、よく言われる犬の「分離不安」にも表れています。「分離不安」は、犬が飼主から離れることで引き起こされる不安関連障害として長く認識されています。飼い主が不在になることで犬は下痢や嘔吐といった体調の変化や、モノを壊したり鳴き続けたりといった問題行動を起こします。4匹のうち1匹が、飼い主から引き離されることで分離不安を起こす*3という報告もあります。仲間や家族、そばにいてくれる人をこれほど必要としている犬を、裏庭に孤立させ、社会との交流を断つことは、大変残酷なことなのです。そもそも、犬がそばにいてくれる人を必要とするように仕向けてきたのは人間なのです。 繋ぎ飼いされている犬(日本)寒さ・暑さ・悪天候・ダニ・ノミ、汚れ、飲水・・・繋がれた犬は自分の意志で涼しい所や暖かいところに移動することができず、犬は焼けつく暑さや厳しい寒さにさらされます。屋外では温度管理ができません。小屋があっても、豪雨や暴風雨を十分にしのぐことはできません。野生動物、ムカデ、マムシ、蚊、ダニ、ノミ、スズメバチなどの容易な標的となります。繋ぎ紐がからまって動けなくなることがあります。水ボウルが転倒したまま、何時間もあるいは何日も水が飲めない状態が続きます。常に外に置かれているため、雨や土や泥、自らの排尿、便、抜け毛などで体が汚れ、悪臭がします。参考:アメリカの規制アメリカでは、自治体が、繋ぎ飼いが引き起こす可能性のある問題を認識しており、多くの州、市や郡で繋ぎ飼いが制限されています。▼アメリカにおける繋ぎ飼いの規制現在(2018年4月時点)、32の州とDCが繋ぎ飼いを規制しています*6。そして300以上の郡や市においても繋ぎ飼いは規制されています。例えばカリフォルニア州では同州のHealth and Safety Code 第105部 第6パート 第8章「犬の繋ぎ飼い(Dog Tethering)」があり、次のような文言があります。犬を繋ぎ留めたり、結び付けたり、押さえつけたりしてはならない。また犬の家、木、柵、または他の固定された物体に犬を繋ぎ止めたり、結び付けたり、拘束してはならない。この第8章「犬の繋ぎ飼い(Dog Tethering)」に違反すると罰則があります。*カリフォルニア州の「犬の繋ぎ飼い(Dog Tethering)」、その他の州の規制の詳細、郡や市の規制状況についてはこちらをご参照ください。 http://unchainyourdog.org/Laws.htm日本の繋ぎ飼いの状況-数十万頭が繋ぎ飼いか日本の犬の飼育場所について一般社団法人ペットフード協会が調査*1を行っています。2017年の調査では主な飼育場所が「屋外」である割合が10.7%。2006年は約30%となっているので、日本人の意識は変わってきているのかもしれません。外につながれたまま「風景の一部」としてあるいは人が来たら吠える「番犬」としてではなく、家族の一員として犬が受け入れられつつあることを、この数字は示しているのかもしれません。 しかしそれでも、国内の犬の飼育頭数が892万頭ですので、およそ89.2万頭の犬が屋外で飼育されていることになります。ペットフード協会の調査は「飼育場所」について調査しているもので、屋外で繋がれているのか、ケージ飼育なのか、広い放飼場で放し飼いなのかはわかりません。しかし私たちのまわりを見ると、屋外で飼育されている犬の多くは繋がれていることを考えると相当数の犬が屋外でつながれたまま孤独な時を過ごしていると考えられます。繋ぎ飼いは犬の生涯を地獄に変える犬を鎖でつなぐこと、鳥を籠に閉じ込めることなどを残虐な行為であると批判した、ドイツの哲学者アルトゥル・ショーペンハウアーは、犬の繋ぎ飼いについて次のように言っています。だからして私は数年前に『タイムス』に報じられていたあの事件を想い出すごとに、まことに我が意を得たりといったような気持にさせられるのだ。鎖につないで一匹の大きな犬を飼っていた或る貴族が、或るとき、庭をよぎりながら、ふと思いついて犬を愛撫しようとした。ところがその犬はすぐさま貴族の腕に咬みついて上から下まで腕の肉をちぎりとったというのだ、――まことにさもあるべきことである! 犬にしてみれば、こう言いたかったのであろう、――「お前はおれの主人ではない、お前はおれの短かい生涯を地獄に変えるところの悪魔だ」。何人にもあれ、犬を鎖につなぐすべての人間に、願わくばこのような運命が訪れてほしいものだ。-「自殺について 他四篇」アルトゥル・ショーペンハウアー著より 人に飼われている犬は、食べものやグルーミング、あたり前の行動ができる自由、快適な環境、身の安全、運動、医療、仲間や家族とのコミュニケーション、これらすべてを彼らの飼い主である人間に依存しています。 「繋ぎ飼い」という飼育方法は、これらの基本的なニーズを提供することができません。 繋ぎ飼育をするしかないのであれば、犬を飼うべきではありません。 繋ぎ飼いされている犬(日本) 繋ぎ飼いされている犬(日本) *1 http://www.petfood.or.jp/data/index.html *2 Gersham KA, Sacks JJ, Wright JC. Which dogs bite? A case control study of risk factors. Pediatrics 1982; 93: 913-917. Dog Bite Injuries and Fatalities in the United States The University of Minnesota *3 Trut, Lyudmila N (1999), ““Early Canid Domestication: The Farm-Fox Experiment“”, American Scientist 87 (2): 160–169。 (40年間に及ぶアカギツネを飼い慣らすプログラムによるロシアの幼形進化に関する研究)*4 November–December, 2016Volume 16, Pages 28–35 Separation anxiety in dogs: What progress has been made in our understanding of the most common behavioral problems in dogs? *5 Veterinarians team up with plastic surgeons for dog bite prevention week – May 15, 2003 National Dog Bite Prevention Week, May 18-24 *6 State Summary Report Animal Tethering Prohibitions Updated April 2018 クリックして Twitter で共有 (新しいウィンドウで開きます)Facebook で共有するにはクリックしてください (新しいウィンドウで開きます)クリックして X で共有 (新しいウィンドウで開きます)Share This Previous Article環境省は動物福祉・動物愛護をリードできるのか?! Next ArticleGood news!!! ルクセンブルクが毛皮生産を禁止! 2018/06/15