欧州5カ国における乳牛のアニマルウェルフェアを比較する

Dairy cattle welfare – the relative effect of legislation, industry standards and labelled niche production in five European countries

P. Sandøe, H.O. Hansen, E.A.M. Bokkers, P.S. Enemark, B. Forkman, M.J. Haskell, F. Lundmark Hedman, H. Houe, R. Mandel, S.S. Nielsen, E.M. deOlde, C. Palmer, C.S. Vogeler, T. Christensen

2023/10/12

https://doi.org/10.1016/j.animal.2023.101009

論文概要

 

  • ベンチマークツールを用いて乳牛のための福祉規定をEU 5カ国で比較
  • 酪農福祉の向上を目的とした法律やその他の取り組みの違い
  • スウェーデンとデンマークの福祉規定は最も高いレベルにある
  • 乳牛の社会的ニーズとスペースや移動の自由についての優先順位は各国で異なる
  • こうした違いのため、福祉基準を完全に一致させるのは困難かも知れない

乳牛の福祉を確保するために特別に設定された欧州連合(EU)共通の法律は、子牛に関するものだけである。そのため、EU諸国において乳牛の福祉を担保する方法はさまざまに異なる。数カ国では乳牛福祉に法的要件が定められているが、業界基準や特定の生産要件に委ねられている国もあり、一般的にはさまざまな(機能・基準を保証する)認証ラベルと結びついている。本稿では、乳牛の生産におけるアニマルウェルフェアの規定について、異なる法制度やその他アプローチを持つ5カ国(デンマーク・ドイツ・オランダ・スウェーデン・英国)で比較した。

最初に、各国のアニマルウェルフェアの取り組みにおける多様性を明らかにした。次に、個々の福祉規定の相対的重要性を専門家が評価し、重み付けを行うベンチマーク法を用いた。その結果、ベンチマーク法で測定した乳牛の福祉に関する規定においてはデンマークとスウェーデンが最も高いレベルにあり、その一因は高い福祉要件によるものであることがわかった。これに次いで英国は、非常に高い普及率を誇る広範な業界標準を有していることがわかった。一方、ドイツとオランダでは、文書化された福祉規定のレベルが低く、それに応じてベンチマークのスコアもEUレベルの法的要件で定義された基準値に近いものであった。

また、アニマルウェルフェアのどの要素に重点を置いているかにも違いが見られた。牛の社会的ニーズを満たすことを重視する取り組みもあれば、スペースや移動の自由を重視する取り組みもあった。また、ベンチマークスコアが最も高い国は、有機乳製品やその他の特産乳製品の生産量が比較的多いことがわかった。国による法制化や業界による先進的な基準による影響は、乳牛の福祉においては豚や鶏に関して報告されているものに比べてはるかに大きいことが明らかになった。

EUが共通の最低基準によってアニマルウェルフェア向上への取り組み強化を検討している現在、本研究の結果は重要な政策的意義を持つと思われる。乳牛の福祉基準が国によって多様であることは、今後もEUレベルおよび世界レベルで最低基準を共有することの意義を示しているのかも知れない。しかし、ベンチマークスコアが同程度の国々の間でも福祉規定の種類には違いがあり、このため国家間で福祉基準を完全に一致させるのが困難になっている可能性はある。

 

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