論文概要
- 酪農業における動物の苦しみへの認識が高まるにつれ、罪悪感が誘発された
- 罪悪感の増大によって、乳牛に対する心の帰属*と道徳的懸念が減少した。
- 罪悪感の増大はまた、乳製品の摂取を減らそう・やめようという意思の増大にもつながった
- このような効果は、特に種差別の強い人々で顕著であった
肉を食べる人々に、食肉生産のために動物が傷つけられていることを思い起させると、食肉消費に対する心理的緊張が誘発される。この緊張に対処するために人々は、肉の消費を減らすか止めるか、あるいは食用動物に心があることを否定することで、動物の道徳的地位を下げる。しかし、乳製品の消費を考える場合にも同様の反応が起こるかは不明である。
乳製品に関して、人々がこのような認知的不協和を低減する方略を用いるどうかを調べるため、事前登録された実験(動物性食品の消費者345名)において、乳牛に加えられる苦痛についての認識(苦痛が大きいか小さいか)を実験条件として操作した。乳牛の苦痛が大きい条件への参加者は、より大きな罪悪感を抱いたが、それに続いて2種類の異なる反応― a) 乳牛に対する心の帰属や道徳的懸念が減少する b) 乳製品の摂取を減らす・やめる意思が強くなる―が見られた。これらの効果は、種差別意識の高い参加者において特に顕著であったが、種差別意識の低い参加者ではその効果は小さく、罪悪感・乳製品の消費削減についてはより弱い傾向、心の帰属・道徳的関心について非有意であった。
この結果は、酪農場における動物の苦しみへの認識が高まると、食肉に関連した不協和反応と同様に罪悪感や不協和を低減する反応が誘発されることを示している。このように酪農に関連した認知的不協和が実証されたことから、食肉以外の畜産物の消費により焦点を当てた研究が必要である。
*意思・認知・情動など心の基本的な機能を相手に認めること。ここでは、乳牛がヒトと同じように心を持っていると認めることを指す。
Maria Ioannidou, Valerie Lesk, Barbara Stewart-Knox, Kathryn B. Francis
2023/12/21
Don’t mind milk? The role of animal suffering, speciesism, and guilt in the denial of mind and moral status of dairy cows