論文概要
人類はこれまでに地球環境の限界(プラネタリーバウンダリー planetary boundary)* を幾度となく逸脱してきたが、畜産業はその主要な動因であり、(牛・羊など)反芻動物からの食肉生産は特に大きな影響を及ぼしている。現在の畜産物に対する需要の動向を考えれば、畜産による環境への影響を大幅に削減するための戦略が喫緊に必要とされている。
ここでは、地球環境の限界のフレームワークにおける持続可能性の3つの主要な指標-気候変動・(窒素・リンの)生物化学的循環・土地システムの変化-に対する畜産の影響について、公表されているデータをもとに検証し、現在および将来(2050年)の時点において人類の安全な活動領域に対して畜産が占める割合を定量化する。
我々の推計では、持続可能性に関するこれらの領域において、畜産業はすでに人類の安全な活動空間の大部分を占有しているか、あるいはそれを超過している可能性があり、このような影響は2050年までにさらに拡大すると予測される。
さらに今後、現時点で合理的に予測可能な技術による対策で畜産業による環境への影響を緩和できるのか、その可能性について探索する。こうした対策は確かに必要であると考えられるものの、上記で検証した地球環境の限界に関する3つの指標に基づいて考えるとすれば、畜産が及ぼしている影響の大きさを持続可能なレベにまで縮小させるうえで十分な効果があるとは考えにくい。
これらの知見から、持続可能な食料システムを実現し、人類が安全な空間で活動できるためには、マクロ経済政策によって持続可能な生産と消費の双方を促進することが不可欠であると考えられる。
* 人類にとって安全な活動領域となり得る地球環境の限界
Nicholas Bowles, Samuel Alexander, Michalis Hadjikakou
2019/03/01
The livestock sector and planetary boundaries: A ‘limits to growth’ perspective with dietary implications